BALLAD 名もなき恋のうた - 前田有一

◆こども向け時代劇(40点)

 『BALLAD 名もなき恋のうた』は、クレヨンしんちゃんがご自身の番組で宣伝しまくってくれているおかげで、きっとたくさんのお客さんに見てもらえることだろう。

 2002年の『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶアッパレ!戦国大合戦』の実写版である本作は、同時に大ヒット作『ALWAYS 三丁目の夕日』シリーズの山崎貴監督最新作でもある。さらには、芸能界きってのナチュリストぶりを発揮した草なぎ剛主演ということで、話題性には事欠かない。完璧すぎる布陣といってよいだろう。

 おとなしく、いじめられがちな少年・川上真一(武井証)は、ひょんな事から天正2年にタイムスリップ。春日の国とよばれるそこで、「鬼の井尻」と恐れられる武将、井尻又兵衛(草なぎ剛)の命を偶然救った真一は、彼が幼馴染の廉姫(新垣結衣)と、身分を越えて惹かれあっていることに気づく。だが美しい彼女を狙う大名、大倉井高虎(大沢たかお)が、権力と軍事力をかさに強引に結婚を申し込んでくるのだった。

 アニメ版と同じオープニングで始まる実写版は、さすがにしんちゃんがお尻を出すような内容にはならず、ストーリーの骨格を借りたSF時代劇として仕上がっている。そのほかクレしんの名残は、少年の名前(真一)などにも残っている。

 最近では実写ドラマ版「こち亀」の熱烈大好評を例に挙げるまでもなく、「絶対やめとけ」的なマンガ実写化は日本のお家芸。どうせなら、お尻ブリブリ全開で実写化してくれれば、伝統あるC級実写日本映画の殿堂入りを果たせただろうに、つくづく残念でならない。

 山崎監督らしい、VFXや壮大なセットによるスケール感あふれる映像は健在で、合戦の場面などは大きな見所。ここで監督は、実際の戦国時代の戦法(槍で相手をたたくなど)に忠実に演出したというが、正直なところ、その必要性と効果については疑問が残る。

 ようは、同様のコンセプトを持つアニメ版を踏襲したわけだが、実写は実写なりに、普通の時代劇として古典的な演出でやったほうが良かったように思える。もっとも、そういう時代劇をこの監督が撮れるかどうかはまた別の話だが。

 いずれにしても、本作はこども向け時代劇の範疇を出ない。そういうジャンルはあまりないから、これはこれで存在価値はあると思う。ただ、クレしん劇場版に泣いた大人はあまり期待しないほうが良いだろう。年齢とわず楽しめる、傑作の誉れ高いオリジナルのアニメ版とは、ここがもっとも違う。

 なにしろ、SF設定のみならず、主要な役者の演技力、セリフまわし(言葉遣い)も含めてあまりにマンガ的すぎる。槍で人をたたいた所で、リアリティなど出るはずもない。

 脚本上における改善要望点としては、未来人と過去人が互いに影響を与え合うテーマがあまり機能していない部分。原因は、未来側のキャラクターが過去人の確固たる価値観を揺るがすにはあまりに軽すぎる事。やはり、クレヨンしんちゃんのあの強烈な押しがあってこそ、うまく成立していたのだなと感じさせる。

 なかなかユニークな企画ではあったが、そんなわけで小学生のお子様以外にすすめる理由は思い当たらない。

前田有一

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