おとうと - 福本次郎

◆迷惑ばかりかけられるのに見捨てることができない。幼いころから弟の出来の悪さを知っている、血縁の濃い姉という立場の微妙な距離感と戸惑いを吉永小百合が上品に演じ、彼女が口にする言葉の美しさが映画に品を与えている。(80点)

 出来が悪いからこそいとおしく、迷惑ばかりかけられるのに見捨てられない、肉親のストレートな情愛。中年を過ぎてもいまだに中途半端な生き方しかできず身内のトラブルメーカーとなっている弟を持ったヒロインは、いつか彼が立ち直ると期待している。物語は、そんな姉と弟の腐れ縁を人情味あふれるタッチで描く。親ならばたいてい先に死ぬが、姉はほぼ同時に年をとる。幼いころから弟の素行を知っている、血縁の濃い姉という立場の微妙な距離感と戸惑いを吉永小百合が上品に演じ、彼女が口にする言葉の美しさが映画に品を与えている。

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イエローキッド - 福本次郎

◆閉塞感を抱いたまま突破口を見いだせずにいる青年と、創作活動に没頭するあまり現実を見失っていく漫画家。心を傷つけられてもなんとか生きていこうとする姿を、カメラはリアルに切り取り、鬱屈した感情の爆発を冷徹に見守る。(60点)

 痴呆症気味の祖母の面倒を見ながらボクシングジムに通う青年は、ボクシング同様に世渡りの才能も運もなく、どうにもならない閉塞感を抱いたまま突破口を見いだせずにいる。新作のヒントを求めてボクサーを取材する漫画家は元恋人に強い未練を残し、創作活動に没頭するあまり現実を見失っていく。二人は導かれるように出会い、人生がシンクロしていく。うまくいかない日常に心を傷つけられてもなんとか生きていこうとする姿を、カメラは痛ましいまでにリアルに切り取り、鬱屈した感情の爆発を冷徹に見守る。

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フローズン・リバー - 福本次郎

◆食事にも事欠く米国貧困層の生活がリアルだ。体に刻まれた下品なタトゥーが過去を暗示し、乱れた髪とかさついた肌が現在を明示するが、子供たちの前では決して弱さを見せないヒロインの姿が母親としての覚悟を象徴する。(70点)

 トレーラーハウスに住み子供たちの食事にも事欠くほどなのに、リビングルームには巨大な液晶テレビが置かれている。収入はわずかなのに消費は止められない米国貧困層の生活ぶりがリアルだ。ただ、現金のために仕方なく犯罪に手を染めても良心まで失っているわけではなく、不法行為はしてもモラルの線引きはしている。それは子供たちには少しはましな人生を送らせてやろうという心使い。ヒロインの体に刻まれた下品なタトゥーの数々が過去を暗示し、乱れた髪とかさついた肌が現在を明示するが、日々成長を続ける子供たちの前では決して弱さを見せない彼女の姿が母親としての覚悟を象徴している。

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パーフェクト・ゲッタウェイ - 福本次郎

◆南の島にやってきたカップルが猟奇殺人のニュースを聞いて、襲われるのではと疑心暗鬼になっていく。出会う人々がみな凶悪に見え些細なことに過剰反応する、そんな不安にさいなまれる心理描写は追い込まれるような緊張感だ。(40点)

 緑だけでなくオレンジ色も濃い深い自然が残る南の島。そこに新婚旅行にやってきたカップルが猟奇殺人のニュースを聞いて、自分たちも襲われるのではないかと疑心暗鬼になっていく。出会う人々がみな凶悪に見え些細なことに過剰反応する、そんな不安にさいなまれる心理描写はじわじわと追い込まれるような緊張感。そして、いきなり転調し、見る者の予想を覆すためだけに考えられた仕掛けには、思わずイスからずり落ちそうな衝撃を受ける。

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ラブリーボーン - 福本次郎

◆親しい人々がすぐ目の前にいるのに、思いを届けられない。ただそばに寄り添い、存在を感じてもらうだけ。14歳で殺された少女の、憎しみよりも愛、恨みよりも感謝の気持ちを、生きている者たちに必死で伝えようとする姿が美しい。(70点)

 親しい人々がすぐ目の前にいるのに、思いを届けられない。ただそばに寄り添い、存在を感じてもらうだけ。14歳の冬、突然命を奪われた少女が現世と天国の境目でさまよううちに、己の人生が短いながらも有意義だったと知る。憎しみよりも愛、恨みよりも感謝の気持ちを、生きている者たちに必死で伝えようとする彼女の姿が美しい。愛された思い出さえあれば、残った家族や恋人の心の中で生き続けることができる。そんな主張が死に対する恐れを取り除いてくれる。

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サロゲート - 福本次郎

◆細身の長身にサラサラの金髪をなびかせたブルース・ウィリスに、不快感にも似た違和感を覚えた。一見平和で豊かな未来像は、肉体は精神の入れ物にすぎないが、入れ物の働きなしに中身は洗練されない事実を気付かせてくれる。(50点)

 細身の長身にサラサラの金髪をなびかせた素肌もツヤツヤのブルース・ウィリスに、不快感にも似た違和感を覚えた。もちろん主人公のアバターだが、外見のみならずなく仕種や表情まで人間そっくりのロボットが、人間の代わりに日常生活を営んでいる社会に対する生理的な嫌悪感に由来する。ロボットを操縦する人間は自宅で横になって、脳波を電気信号に変換して飛ばしコントロールしている。つまり物理的活動をロボットにまかせ、自らは動くことを放棄している。一見平和で豊かになったように見える未来像は、肉体は精神の入れ物にすぎないが、入れ物の働きなしに中身は洗練されない事実を気付かせてくれる。

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Dr.パルナサスの鏡 - 福本次郎

◆心を読む能力を持った男が、魔法の鏡の中で人々の願望をリアルな幻覚として再現する。しかし、人間の想像力が産みだすビジュアルなど所詮はその人の知識や経験の延長上にあり、そこには歩んできた人生が深く投影されるのだ。(50点)

 人の心を読む能力を持った男が、魔法の鏡の中で人々の願望をリアルな幻覚として再現する。ある者は放蕩の果てに悔悛の情を抱き己に罰を下し、ある者は永遠の若さと美貌を取り戻して恋のヒロインになろうとする。イマジネーションの世界では思い通りになることもあれば、意に反して苦悩と苦痛を生む結果にもなる。鏡に入って幸せになる者、反対に一刻も早く逃げ出したくなる者、結局想像力は無限といわれているが、人間の想像力が産みだすビジュアルなど所詮はその人の知識や経験の延長上にあるに過ぎず、そのビジョンには歩んできた人生が深く投影されるのだ。

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マッハ!弐 - 福本次郎

◆トニー・ジャーという稀代のアクション俳優の超人的な身体能力の限界に挑戦することに最優先し、エピソードは付け足しに過ぎない。命がけの格闘シーンの連続に“ものすごい映像を見た”という満足感を得られるのは間違いない。(70点)

 剣道、カンフー、ムエタイ、総合格闘技、そしてナイフを使ったゲリラ戦術まで、あらゆる武術において達人の域に達した主人公の肉体的パフォーマンスには圧倒される。さらに群れをなす象の背中を自在に走り回り、心をつかんでしまうなど動物ですらひれ伏せさせてしまう精神面での充実も描かれる。映画は、トニー・ジャーという稀代のアクション俳優の超人的な身体能力の限界に挑戦することに最優先し、エピソードは付け足しに過ぎない。それでもCGに頼らない命がけのシーンの連続に “ものすごい映像を見た” という満足感を得られるのは間違いない。

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かいじゅうたちのいるところ - 福本次郎

◆そろそろ身の回りの雑事は自分でやらなければならない年頃になった少年が、抑えていた苛立ちを爆発させる。言いたいことをうまくいえず、他人を困らせて感情を表現する子供の行動は、見る者に幼き日の記憶をよみがえらせる。(50点)

 お姉ちゃんと遊びたいのに相手にしてもらえない、お母さんにかまってほしいのにこっちを向いてくれない、かわいがってくれたお父さんはもう家を出て行った。年上の家族が面倒を見てくれた幼年期は終わり、そろそろ身の回りの雑事は自分でやらなければならない年頃になった少年が、抑えていた苛立ちを爆発させる。言いたいことをうまくいえず、他人を困らせて感情を表現する子供の行動は、見る者に幼き日の記憶をよみがえらせるだろう。誰もが経験があり、大人になって失ってしまった気持ちが切ないほどリアルに再現される。

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BANDAGE バンデイジ - 福本次郎

◆半端な意思や能力はすぐに淘汰され、特別な才能を持った者だけが生き残る現実。見果てぬ夢を追う若者たちの姿を、音楽業界に飛び込んだ素人の女の子の目を通して、切ないメロディを奏でるかのようなしっとりとした映像で描く。(60点)

 主人公が好きな女の子ためにギターを爪弾きながら口ずさんだ恋人を励ますための歌が、「大人の判断」で大衆を元気付ける歌謡曲に脱皮する。ごく個人的な歌が、まさにジャニーズのアイドルグループの歌のようにアレンジされ売り出される過程は、音楽業界のシステムをリアルに再現する。半端な意思や能力はすぐに淘汰され、特別な才能と向上心を持った者だけがプロとして生き残る現実。見果てぬ夢を追い、自分の目指す音楽こそ最高と信じて疑わない若者たちを、この業界に飛び込んだ素人の女の子の目を通して、切ないメロディを奏でるかのごとくしっとりとした映像で描く。

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板尾創路の脱獄王 - 福本次郎

◆一切の会話を拒み、脱走してはわざと捕まり、さらに警戒厳重な監獄に送り込まれるのを望む。自由を得るために逃げるのではなく、拘束されるために逃げる。その奇妙な発想は官憲の意表を突き、見る者の予想を裏切り続ける。(50点)

 金網からかすめ取った針金で錠を開け、鼻血をねじにこすりつけ鉄格子を緩め、歯を削って作ったレンチで手錠をはずす。身のこなしは軽業師のようにしなやかで、小窓を抜け梁を登り屋根をかける。拘置所・刑務所を脱獄することだけに10年以上の月日を費やした男の恐るべき執念と情熱。一切の会話を拒み、脱走してはわざと捕まり、さらに警戒厳重な施設に送り込まれるのを望む。自由を得るために逃げるのではなく、拘束されるために逃げる。その奇妙な発想は官憲の意表を突き、見る者の予想を裏切り続ける。

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今度は愛妻家 - 福本次郎

◆ケンカばかりしていても深く愛し合っている夫婦の、本当は相手の心を分かっているけれど素直に感謝を口にできない照れくささが妙味を見せる。一見古いホームドラマのようで、重い喪失感と後悔を含蓄に富む物語にまとめている。(70点)

 かいがいしく夫の世話を焼く妻、妻を鬱陶しく思いつつも甘えてしまう夫。ケンカばかりしていても深く愛し合っている夫婦の、本当は相手の心を分かっているけれど素直に感謝を口にできない照れくささが妙味を見せる。そして、妻の家出が夫にもたらす解放感と無気力。長年連れ添った夫婦だけがたどり着くなれ合いという名の愛情を、ほとんど室内の限定された空間の中で、ふたりのベテラン俳優が芝居のせりふのような間の掛け合いを見せる。一見古いホームドラマのようで、重い喪失感と後悔を含蓄に富む物語にまとめている。

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ユキとニナ - 福本次郎

◆両親の不仲に小さな胸を痛める女の子は、食卓で父と母が怒鳴りあっていても黙々と食事を続ける。目の前の夫婦崩壊をなかったものにしておけば、再び家族が仲良く暮らせるようになるのでは、という彼女の思いが切なく哀しい。(60点)

 両親の仲が悪いのは自分にも責任があるのではと小さな胸を痛める女の子は、食卓で父と母が些細な行き違いで言いあいを始め、やがてそれが怒鳴りあいに発展してもまるで耳をふさいでいるかのように黙々と食事を続ける。目の前で起きている夫婦関係の崩壊をなかったものにしておけば、再び家族が仲良く暮らせるようになるのでは、という彼女の思いが切なく哀しい。映画は、離婚という大人の事情に人生を左右される少女の姿を通じて、彼女たちの成長を描く。

すべては海になる - 福本次郎

◆仕事・恋・人間関係、しがらみを感じながらも何とか折り合いをつけているヒロインは、現状を否定しているわけではないが、「これは本当の自分ではない」と違和感を覚え、満ち足りているはずなのに居心地の悪さを感じている。(50点)

 「“愛”は本を売るために作家が考えた言葉」、ヒロインが言うように、恋愛小説に描かれた物語のごとき劇的な出来事などわずかで、ほとんどの人は退屈な毎日を繰り返しながら歳老いていく。そんな、仕事・恋・人間関係、それらにしがらみを感じながらも何とかうまく折り合いをつけている彼女の平凡な日常がリアルだ。現状を否定しているわけではないが、どこか「これは本当の自分ではない」と心の隅で違和感を覚え、満ち足りているはずなのに居心地の悪さを感じる現代女性の繊細な心理を佐藤江梨子が好演。不幸な環境の少年を救うことで己を変えるきっかけを探そうとする姿は、真正面から他人と向き合うのが生きることの第一歩であると語っている。

ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女 - 福本次郎

◆40年前の失踪事件を洗いなおす主人公が真相を突き止めていく過程がアイデアに満ち溢れ、パズルのピースを埋めていく作業とリアルな暴力が交錯し、スリルとインテリジェンスを兼ね備えた上質なミステリーに仕上がっている。(80点)

 新聞に掲載された一枚の写真から連続して撮影されたネガにたどりつき、被写体の表情が変化するを発見する。平穏な表情が恐怖に一変する様子を探し出すという調査報道に携わるジャーナリストならではの観察眼と根気。さらに残された数字が迷宮入りしていた惨殺事件に結びつき、血ぬられた一族の恥部が闇から浮き上がる。大昔に起きた失踪事件を洗いなおす主人公が、警察も解明できなかった真相を突き止めていく過程がアイデアに満ち溢れ、地道にパズルのピースを埋めていく作業とリアルな暴力が交錯し、スリルとインテリジェンスを兼ね備えた上質なミステリーに仕上がっている。

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