爽快感よりも悲劇性が強い(50点)
日本の有名アニメのハリウッド実写化はいつもビミョーだが、今回も同様。だが、違和感を感じつつの鑑賞も、次第に物語に引き込まれるのはさすがではある。ロボットと人間が共存する空中都市メトロシティ。ロボット工学の権威・テンマ博士の息子トビーが不慮の事故で命を落とす。深く悲しんだ博士は息子そっくりのロボットを作るが、やはり生身の人間とは違っていた。博士に疎まれたトビーはメトロシティを去り、地上にやってくる。“アトム”として生まれ変わったトビーだったが、胸に埋め込まれた究極のエネルギー・ブルーコアを狙う魔の手が迫る。
言うまでもなく巨匠・手塚治虫の名作「鉄腕アトム」が原作。本作は最強のロボットであるアトムの誕生と、アトムが人間を守ろうとする意識の芽生えを描いているが、爽快感よりも悲劇性が強い。何しろ、生みの親のテンマ博士から疎まれて捨てられた上、地上に来てもグラディエーター並みに過酷な闘いを強いられる。児童虐待すれすれのこの生い立ちで、よくまぁ「心優し、科学の子」に育ってくれたものだ。この作品は資金難で制作中断を余儀なくされたことも不幸だが、終始感じる違和感は、なじみが薄いアニメーション・スタジオ“イマジ・スタジオ”が映像を担当しているせい。このスタジオはアニメ作画は香港にアウトソーシングしている点がウリだが、日本側の再三の修正要請もむなしく、アトムの天真爛漫さが感じられない。美少年だが妙に大人っぽく、アメコミ・ヒーローのごとく悩む憂い顔のアトムに、往年のファンは落胆するのではなかろうか。絵柄には不満はあるが、物語として嬉しいのは、アトムとテンマ博士が和解すること。幸せそうなアトムの顔と、ラストに流れるおなじみの主題歌でようやく満足した。
(渡まち子)