◆前半には哲学的なムードが漂うのだが、後半は迫力のアクション・ムービーに(65点)
独特の味わいの異色アニメーションの映像は、アメリカ映画というより東欧のそれを思わせる。古い研究室で一体の人形が目を覚ます。麻で出来た身体、腹部には大きなジッパー、背中には数字の“9”の文字。状況が分からないまま外に出ると、街は見渡す限りの廃墟と化していた。世界は終わってしまっているのか?! そんな9の前に2の背番号の人形が現われ自分たちは仲間だと告げるが、突如現われた巨大な機械のモンスターに襲われてしまう…。
もともとは監督のシェーン・アッカーがUCLAの卒業制作として作った11分弱の短編。それをティム・バートン監督が絶賛し80分の長編劇映画になった。人類が滅亡した世界で、主人公の人形が、自分とは何者か、そして何のために生まれたのかを探求する。どこかで見たような物語設定だが、テクノロジーの暴走によって滅亡した世界は一種のディストピアで、寂しさの中に奇妙な美しさがにじむのが特徴的だ。この暗さへの執着は、ヤン・シュヴァンクマイエルやクエイ兄弟を好む人にはたまらないだろう。9人の人形たちはそれぞれに個性的で、リーダーで傲慢な1、お人好しの2、小心者の5など、バラエティに富んでいる。中でも自立心が強くタフな女性戦士7は魅力的だ。主人公9は直感で動き、皆を新しい世界に導く役割を担っている。前半には哲学的なムードが漂うのだが、後半は迫力のアクション・ムービーに。これがありがちなSF映画のような印象をもたらして少々残念だったが、何といっても人形を麻で表現したセンスが素晴らしい。皮膚とは明らかに違うのだが金属のように冷たくない。それでいてザラついた質感には不確定で不穏なムードがある。作り手はこれを“スティッチ(継ぎはぎ)”と呼んでいるらしい。人間が滅亡し、継ぎはぎだらけの破片になっても、そこには人間性を継ぐ生命があるというわけだ。ビジュアルはダークだが、メッセージには希望が込められている。
(渡まち子)