◆決して華やかな作品ではないが人生の豊かさを感じさせる(60点)
大人の恋は、分別があるだけに最初の一歩に勇気が必要。中年男女の諦観や疲労といった心情を名優2人がしっとりと演じている。NY在住のCM作曲家ハーヴェイは娘の結婚式に出席するためロンドンにやってくる。離婚後疎遠だった娘や別れた妻と上手くいかず、仕事のことも気になるハーヴェイは帰国しようとするが、飛行機に乗り遅れてしまう。一方、空港で働くケイトは、婚期を逃して恋に臆病になっている40代の女性。そんな2人が偶然に出会ったことから、ロンドンの街で、1日を一緒に過ごすことになるが…。
ダスティン・ホフマンとエマ・トンプソン。米英を代表する演技派の本格的な共演は、人生の折り返し地点を過ぎた中高年男女の少し臆病な恋物語だ。どこかやんちゃでわがままなところが残るハーヴェイにはきままな人生もまた良しとの思いがあるが、それでも寂しさは隠しきれない。やるせないのはケイトのキャラクター。大勢の輪に入れず楽しい雰囲気にもなじめずに孤立してしまうのは、新しい出会いによって傷つくのが怖いからだ。恋や夢を諦めてしまうのは、その方が楽だからだと言う彼女は、本当はチャレンジが怖いだけ。ちょっとモッサリとしたエマ・トンプソンがそんな中年女性の屈折を繊細に演じていて上手い。出会いは最悪だし、すれ違いもあった。それでも勇気を出して新しい未来を信じてみたら希望が見えた。こんな渋い恋物語を2大オスカー俳優を使って演出してみせたジョエル・ホプキンスという監督は、これがまだ監督2作目だというから、たいしたものだ。決して華やかな作品ではないが人生の豊かさを感じさせる小品。ロケ地であるロンドンの街のプチ探訪気分を味わえるのも楽しい。
(渡まち子)