4ヶ月、3週と2日 - 岡本太陽

カンヌ国際映画祭パルム・ドール受賞の生々しい物語(85点)

 昨年、多くの映画祭に出品され、カンヌ国際映画祭パルム・ドール受賞等数々の賞に輝いたあるルーマニア映画がある。『4ヶ月、3週と2日(英題:4 Months, 3 Weeks and 2 Days)』というその映画は80年代のブカレストを舞台に、ある1人の女子大生が当時違法の、ルームメイトの中絶を助けるという1日の出来事を描いた作品である。

 1987年、チャウシェスク政権下末期のルーマニアはブカレスト。そこに女子大生オティリアはいた。彼女は大学の寮で中絶を決めた妊娠中のルームメイトのガブリエラと一緒に暮らしていた。当時、ルーマニアでは中絶は違法だったが、ガブリエラは友人伝いに、中絶を行うミスター・ベベという男を紹介されていた。ミスター・ベベは中絶に際し、ある特定のホテルに予約を入れるように指示した。中絶執刀の当日、オティリアは気分の優れないガブリエラの為に、そのホテルに赴くが、ホテル側は予約の確認が取れなかった為、部屋は用意されていないという。そのホテルはその日は満室だったため、彼女は違うホテルに予約を入れ、ガブリエラとは姉妹関係と偽り、ミスター・ベベに会う。そしてその日はオティリアが予想だにしなかった無情な1日となるのだった…。

 この作品を監督したのはクリスチャン・ムンギウ。今までルーマニア映画がカンヌ映画祭で最高賞を受賞したことはなかったのだが、彼はこの長編作品2作目で見事最高賞に輝いた。そしてこの新しい才能の出現に世界は湧いた。1989年にルーマニアでは中絶は違法ではなくなった。しかし、中絶は常に議論される問題である。クリスチャン・ムンギウは中絶という問題を通し、自由とは何かを問う。

 この『4ヶ月、3週間と2 日』は、共産主義政権下のルーマニアが舞台のせいか、とにかく閉鎖的でかつ救いようのない陰湿さに包まれている。音楽も特にはなく、観客は自然と逃げたくても逃げられないという心理的に圧迫された気持ちになってしまうだろう。不安や緊張や恐怖が静かに迫って来るので、サスペンス映画の様な要素も持ち合わせているいってもいい。

 また、この作品は、最初から最後まで映像が生々しい。特に主演のアナマリア・マリンカの演技が自然体なのが良い。この手の作品で素人を起用する監督もいるが、素人ではなく、自然体に演技ができる彼女を起用したのは大正解。観る者は否応無しに感情移入してしまう。また、画面も登場人物達の行動と共に揺れたりするため、リアルというよりは生々しくなってしまったのだ。それが絶妙にわたしたちの心を捕らえる。

 オティリアにはアディという恋人がいる。ガブリエラの中絶の日、アディは彼の母親の誕生パーティーにオティリアを呼んでいた。しかし、オティリアはガブリエラの事で奔走している。そこで友情を取るか恋人を取るかという選択肢が出現するわけだ。事が事なだけにガブリエラを放ってはおけないオティリアはアディの母の誕生日に出席するものの、アディや彼の母にとっては楽しい雰囲気を壊す「空気の読めない」行動を取る。可哀想なアディだが、それは仕方のない結果である。このシーンは他のシーンに比べると少々ドラマチックである。

 『4ヶ月、3週と2日』では、中絶問題の傍ら友情も描いているのだが、それは、ちょっとおバカなガブリエラをしっかりもののオティリアが守っている感じに近い。物語の中に中絶を執刀するミスター・ベベという胡散臭い男が出て来る。オティリア達は彼に酷い目に遭わされるのだが、それはガブリエラの嘘や、忘れ癖によるものである。オティリアはただただガブリエラを助けたいだけだが、結局苦い思いをさせられてしまうのである。微妙な女同士の友情を垣間みる事が出来る。

 上ではガブリエラのせいで彼女達は酷い目に遭ったと述べたが、基を辿れば、チャウシェスク政権下で中絶が違法だった事が原因なのだ。故にオティリアはガブリエラのことを本気で責める事ができない。かといって、中絶が許されるべきかと言われると疑問も残る。昨年『アメリカン・ヒストリーX』のトニー・ケイ監督がアメリカにおける中絶問題に迫った『LAKE OF FIRE』というドキュメンタリー映画が公開された。恐るべき映像の数々に唖然とさせられたが、それにより、中絶は普遍的な問題で、賛否どちらかに偏るのは難しく、かつ危険であるということが認識できた。

 この『4ヶ月、3週と2日』でも中絶に関して賛否を提示していない。問題提起するからこそ、この映画は静かで知的で無情で猛烈な物語になったのだろう。そこで、わたしたちに問題を委ねるという事から思い浮かぶのが「自由」という言葉。『4ヶ月、3週と2日』という映画に関する感想も人それぞれ。中絶に関する意見も人それぞれ。これらは全て自由という言葉に基づいているのである。

 オティリアは中絶を決めたガブリエラの為に身を粉にして助けようとする。自らガブリエラの問題に関わった事で自分自身をどんどん追い込んでゆく。しかし彼女は知っていたのだ、それはガブリエラだけではなく自分自身に対しても同じ問題であるという事を。オティリアという登場人物はまさに人が自由の為ならここまでするということの隠喩。個人の道徳観や表現の自由が守られるということはどんなに尊い事かをこの映画は訴える。観終わった後に、グルグルと思いを巡らす事ができるのはこの映画の持つ魅力かつ力である。

岡本太陽

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