対テロ戦争の未来を強烈に暗示する作品だった。 (点数 60点)
(C)2009 Unthinkable Clock Borrower, LLC. All Rights Reserved.
容赦なき尋問官は捕虜の小指を切断し、残りの指の爪をはがす。人権
など存在しないかのごとき過酷な扱いは人道的立場から見ると首をか
しげたくなるが、大義のために不特定多数の民間人を人質に取ろうと
するテロリストに対しては許されるのか。映画は、核爆弾によるテロ
を目論むイスラムシンパ過激派と、彼を尋問するスペシャリストの虚
々実々の駆け引きを通じて、もはや“正義”という言葉は己の暴力を
正当化する詭弁にしか過ぎないことを露わにしていく。
【ネタバレ注意】
米国内に3つの核爆弾を仕掛けたと声明を出した犯人・ヤンガーが逮捕
され、尋問の専門家・HとFBI捜査官・ヘレンが尋問にあたるが、ヤン
ガーはHがいくら肉体的苦痛を与えても爆弾のありかを白状しない。
ヤンガーはヘレンの動きを予想していたのか、情報を小出しにし真実
は口にしない。彼女の思惑は米国の良識を象徴しているのだろう、ヤ
ンガーがヘレンを手玉に取った上に彼女の信念を粉々に打ち砕くシー
ンは、思考回路が全く違う異教徒との対テロ戦争における米国の苦悩
を鮮烈に表現していた。
どんな国家や組織も軍事力では米国にはかなわない。だがテロならば
一人でも米国相手に戦える。やがて憎悪と復讐が増殖し、対テロリス
トとの非正規の戦争に巻き込まれたものは決して勝者にはなれない。
理性や良心が失われた世界に残されたものは絶望だけという、対テロ
戦争の未来を強烈に暗示する作品だった。
(福本次郎)