30デイズ・ナイト - 山口拓朗

◆「能力低下キャンペーン」を実施するヴァンパイア(40点)

 アメリカ最北端の北極圏に位置するアラスカ州のバロウ。厳冬期には氷点下30℃以下にもなるこの町には、24時間太陽が昇らない「極夜」が約30日続くシーズンがある。そんなシーズンの初日、住人が飼っていたハスキー犬十数頭が、何者かに惨殺された。保安官エバン(ジョシュ・ハートネット)はダイナーで不審人物を逮捕するが、その男は、ヨソ者の襲来をにおわせる不吉な予言を口にするのだった……。

 ヴァンパイア映画の系譜に仲間入りを果たす本作「30デイズ・ナイト」は、その舞台設定におもしろさを求めた作品だ。「極夜」を狙って襲撃をかけてくるヴァンパイアと、暗闇のなかで逃げまどう街の住人たち。住人たちはヴァンパイアの突然の襲来にどう対抗するのか? リーダーまで存在する組織化されたヴァンパイア集団の真の目的とは? そのあたりに興味を引きつけられる。

 しかし残念なことに、この映画は、そうした興味を十分には満たしてはくれない。俊敏にして圧倒的な強さを誇るヴァンパイアの動きは、序盤こそスリリングなシーンを量産するが、中盤以降、その能力のレベルが驚くほど落ちる。理由は、主人公が死ぬとマズいから、だろう。おそらく本気を出せば24時間ほどで街を完全制圧できる能力があるのだが、困ったことに「極夜」は30日もある。せめて28日、29日目くらいまで引っ張らないと映画にならないだろう、とスタッフ一同が考えたかどうかは知らないが、結果的には、能力を落とすことで上映時間の引き延ばしを図った。

 「能力低下キャンペーン」を実施するヴァンパイアに対する、主人公エバンをはじめとする住人たちの無策ぶりもいただけない。延々と続く起伏に乏しい潜伏ドラマをありがたがるのは、よほど広量な人だけだろう。しかも、潜伏する住人たちのキャラクターに魅力がなく、感情移入はおろか、印象に残る人物さえほとんどいない。結局のところ、ヴァンパイアたちに思わせぶり以上の思想や目的がなかった点にもガッカリした。彼らの唯一の弱点が「それ」というのも、あまりにも想定内すぎであろう。こうなると、哀しいかな、孤軍奮闘するジョシュ・ハートネットの熱演もただの浪費に思えてくる。

 強いて見どころを挙げるなら、グレースケール調のスタイリッシュな映像と、純白の雪を染める血の色、ヴァンパイアたちの無気味なメイクアップ、それに30日ぶりに姿を現した太陽を絡めての物悲しいラストくらいなものか。よほどのB級映画フリークかヴァンパイアマニア、あるいは熱烈なジョシュファンでなければ、主人公らと同じように、ツラい耐久戦を強いられることになるだろう。

山口拓朗

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