25年目の弦楽四重奏 - 樺沢 紫苑

夢の実現と代償 (点数 90点)


(C)A Late Quartet LLC 2012

心に染みるいい映画を見ました。

結成25周年を迎えようとする弦楽四重奏団「フーガ」。

しかし、リーダー格のチェリスト、ピーター
(クリストファー・ウォーケン)がパーキンソン病を
患っていることが発覚。

ピーターは引退を申し出ますが、残されたメンバーは動揺し、
「フーガ」の存続が危ぶまれます。

仲睦まじい理想的なカルテットだった彼らの間に、
積年の恨みつらみ、愛情や嫉妬が一気に吹き出すのです。

この映画の主要人物は、
「フーガ」の4人とメンバーの娘のたった5人です。

その5人のメンバーの関係が実に複雑で、
そして微妙に絡み合っている。
物語は極めてシンプルでありながら実に深い。

25年もの間、行動を共にしてきた彼らの間に
固く存在していたはずの「絆」が、
父親的役割のピーターが不在となった瞬間に、
もろくも崩れていくさまが実に悲しいのです。

父性というのは、リーダーであり、まとめ役であり、
その父親的役割はグループ、チームの求心力として
不可欠なんだな、と。

さらには、仕事と家庭、子育ての両立。
自分の夢を追うための犠牲など、
まさにカルテットのように4つくらいのテーマが、
複雑に絡み合いながらドラマを織りなしていきます。

誰もが憧れるプロの音楽家。
そして第一線で25年も活躍し続けることは、
素晴らしい「夢の実現」のように思えますが、
その陰の「犠牲」が彼らの心を蝕んでいた、という。

プロの音楽家の切実な苦労、苦悩が、
胸に迫ります。

クリストファー・ウォーケンのパーキンソン病
としか思えない役作り。

フィリップ・シーモア・ホフマンの
激しく感情を爆発させる演技も見ものです。

先日紹介した、
ダスティン・ホフマン監督の『カルテット!人生のオペラハウス』にも
似た話ですが、「老い」のテーマだけにフォーカスしていな本作は、
重層的で見る人によって様々な反応を引き出すでしょう。

ベートーベンの人生の苦悩が物語の大きなスパイスになっており、
クラシック音楽ファンであれば、さらに何倍も楽しめるはずです。

深イイ映画が好きな方にお勧めです。

樺沢 紫苑

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