20世紀少年 第1章 終わりの始まり - 福本次郎

世紀末東京のカタストロフィの、ディテールに凝ったビジュアルに目を見張る。そのパイパーリアルな映像は炎や煙、瓦礫の飛び散る方向に至るまで緻密な計算で再現されていて、その情報量は人間の視覚では処理できないほどだ。(40点)

 まだ新宿近辺にも原っぱがあった高度経済成長期から、バブル後遺症に苦しみながらも物質的には豊かな生活を享受していた1997年、そして世紀末東京のカタストロフィまで、ディテールに凝ったビジュアルに目を見張る。特に羽田空港や国会議事堂の爆破、巨大ロボットによる街の破壊などのパイパーリアルな映像は炎や煙、瓦礫の飛び散る方向に至るまで緻密な計算で再現されていて、その情報量は人間の視覚では処理できないほどだ。しかし、そこで描かれる物語はやたらに時系列が前後する上に登場人物の人間関係が複雑に絡み合い、間延びしたエピソードが映画のテンポを殺いでいる。

 コンビニ店主のケンヂは同窓会で再会した旧友たちから、小学校時代に書いた「よげんの書」と同じ事件が起きていることを知らされる。さらに、限られた友人しか知らないはずのマークをシンボルにした「ともだち」と名乗る教祖が率いる怪しげな教団が社会問題になっていることも耳に入る。

 元ロックンローラーだったケンヂがさえない日常にウンザリしているところに「よげんの書」の復活を知って、「ともだち」と戦うためにかっての仲間を集める。それが第一部の主題なのだが、なぜお面をかぶった少年が「ともだち」となって世界征服を企んでいるのかの描写がないため、彼のカリスマ性に説得力が乏しい。教義や思想が明快ならばよいが、ただ隣人と手をつなぐだけなのは三流カルトと同じ。政権を狙うのならばもう少し具体的な野望を示してほしかった。民主主義の名のもとに自由という堕落を享受している日本人に規律と勤勉を叩き込むくらいの強烈な主張はほしい。

 やがて「よげんの書」どおりにテロが起き、忽然と現れた巨大ロボットにケンヂ達は挑む。CGで細密に表現された背景とは対照的にそこで繰り広げられるドラマは陳腐極まりない。戦術に独創性がなく、スリリングな展開もない。原作に忠実というのがこの作品のセールスポイントが、2時間半近い上映時間は退屈を禁じえなかった。楽しむためにはきちんと原作を読んでおけということだろうか。。。

福本次郎

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