17歳の肖像 - 福本次郎

17歳の肖像

◆音楽会、オークション、パリ。映画は少女の若さゆえの全能感と繊細な感情をきめ細かく描き、人生は夢と憧れで生きていけるほど甘くないことを学ばせる。ファッションや自動車といったディテールが60年代の雰囲気を再現する。(70点)

ネタバレ注意! この批評は結末に触れています。

 成績は優秀、好奇心は旺盛で、物事を理解する頭の回転も早い。少女からみると、日常に埋もれた毎日を過ごしている大人たちは平凡そのもの。安定した生活を手に入れるための努力を評価せず、刹那的な刺激が幸福であると勘違いする。音楽会、オークション、パリ、ギャンブル。彼女は、眼の前に用意された華やかな世界が労せず手に入り、永遠に続くものと思いこむ。映画はヒロインの若さゆえの全能感と繊細な感情のゆらぎをきめ細かく描写し、夢と憧れで生きていけるほど甘くないことを学ばせる。ファッションから自動車、街並みといったディテールが60年代初頭の雰囲気を活き活きと再現している。

 オックスフォード進学を目指すジェニーは、楽団の練習の帰りにずぶ濡れになっているとデイヴィッドという男に声をかけられ、家まで送ってもらう。後日、放課後にデイヴィッドと再会、コンサートに誘われる。

 デイヴィッドは30歳過ぎの男なのだが、彼の話術や社交性にジェニーはたちまち魅了される。彼が与えてくれるものに疑問を挟まず受け入れ、自分なりに消化する、ジェニーは決してウブな女子高生ではなく、デイヴィッドの期待に応えられるような洗練された女になろうとする。早く大人になりたい、同級生がうらやむ経験がしたい、そんな思いに駆られ、ストレートに態度に出すジェニーが、やぼったい制服からモードを着こなすレディに変身する過程は蛹が蝶に変容するようだ。

 やがてジェニーはデイヴィッドの正体に気づき、深く傷つく。エピソードの端々で、どことなく得体の知れないデイヴィッドと付き合う不安を予感させ、警告を発する先生たちの意見に耳を貸さないジェーンにハラハラさせる演出はスリリングだ。そしてダサい大人のシンボルと思っていた先生も、実は有意義なキャリアを送っていたと知る。職業を持ち、それを長く続けるのは、確かに退屈かもしれない。しかし、人生とは小さく単純な行為を積み重ねて信用を築くもの。ジェニーの若さでそこに気付けたのはある意味幸せだったに違いない。謙虚さを取り戻すだけでなく、猫かぶり的なずるさも身につけるあたり、彼女の女としての成長がほほえましかった。

福本次郎

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