17歳の肖像 - 山口拓朗

17歳の肖像

◆目新しさはないが、ひとりの少女の喜びと痛みを描いたオーセンティックな青春映画としてオススメ(75点)

 「ハイ・フィデリティ」(2000年)や「アバウト・ア・ボーイ」(2002年)の原作者ニック・ホーンビィが、英国の辛口ジャーナリスト、リン・バーバーのとある回想録を脚色。監督に女流のロネ・シェルフィグ、主演に若手女優キャリー・マリガンを起用した本作「17歳の肖像」は、街並からファッションまで、1960年代の空気感をたっぷりと漂わせたイギリスを舞台に、大人の世界へと足を踏み入れる17歳目前の少女の成長と挫折を描いた秀作。キャリー・マリガンは、メリル・ストリープらオスカー候補者を抑えて、英国アカデミー賞の主演女優賞に輝いている。

 舞台は1961年のロンドン郊外。成績優秀な16歳の少女ジェニー(キャリー・マリガン)は、厳格な父の期待を背負ってオックスフォード大進学を目指して勉強に励んでいた。しかし、やりたくもないラテン語やチェロをやらされるなど、内心、退屈な毎日に辟易していた。

 ある雨の日、学校からの帰り道に、彼女は中年紳士のデイヴィッド(ピーター・サースガード)に声をかけられる。最初は不審に思ったジェニーだったが、デイヴィッドの知的でユーモアのある話し方に惹かれて、彼の運転するクルマの助手席に乗り込む。その日以来、ジェニーはデイヴィッドに恋心を抱くようになるが……。

 冴えない同級のボーイフレンドがいる程度だったジェニー。そんな彼女がハイスペックな大人の男、デイヴィッドと知り合ってからの日々は、すべてが夢のようであった。高級車を駆るデイヴィッドは、厳格なジェニーの父をあっという間に口説き落とすや、ジェニーを音楽会へ、ナイトクラブへ、絵画のオークションへと連れ回す。デイヴィッドの隙のないエスコートに魅了されながら、華やかな大人の世界を満喫するジェニー。ふたりで憧れのフランスへ足を踏み入れるシークエンスは、少女の夢が最高のカタチで体現した瞬間である。

 あどけなさの残る制服姿のジェニーが、めいっぱいドレスアップする場面では、誰もが息をのむことだろう。17歳を目前にした少女が、すでに“つぼみ”ではなく“花”である事実をまざまざと見せつけられる。これぞ「小説」や「語り」では表現不可能な、映画ならではの説得力。メディアがキャリー・マリガンを「21世紀のオードリー・ヘップバーン」と称するのもうなずける。

 もちろん、そんな夢物語がいつまでも続くハッピー・サクセスストーリーではない。ジェニーは次第にデイヴィッドや大人社会の裏に隠されたダークな一面にも目を向けざるを得なくなる。そして観客の多くが覚える胸騒ぎを証明するかのように、ジェニーは、もっとも信頼する男から痛打を浴びることになる。

 原題は「An Education(=教育)」だが、ある意味、これほどストレートなタイトルもないかもしれない。ただし、手もとの辞書をあたると「教育」の項目には、「人間性の涵養を図り」とある。ジェニーが経験したジェットコースターのような日々を「涵養(むりせずにゆっくり養い育てることの意)」というとしたら、あまりにアイロニーのスパイスがききすぎといえるだろう。

 もっとも、痛手を浴びたジェニーが、その体験から何を学び、最終的にどのような決断を下したのか? という台風一過の後日談にこそ、この映画のテーマは凝縮されている。これは、ある日突然、信じていた世界の価値観が崩れ落ちたときにどうするのか? という私たちの問題でもある。そして本作「17歳の肖像」では、変容する価値観の一方で、教育者として生徒の可能性を信じ続ける学校の教師や、子を思う普遍的な親の愛をオーバーラップさせることにより、社会における「選択と責任」の所在を、17歳になった少女に知らしめるのだ。

 知性と繊細さを兼ね備えたキャリー・マリガンの好演は言うまでもないが、ピーター・サースガードやアルフレッド・モリーナ、ドミニク・クーパー、ロザムンド・パイク、カーラ・セイモア、エマ・トンプソン、オリヴィア・ウイリアムズら名優たちが、ヒロインの魅力を引き出すべく脇をがっちりと固めたことも、この作品にとっては幸運であった。ファッションやヘアスタイル、音楽、食べ物、インテリアなど、正確な時代考証にもとづいた60’s気分な英国カルチャーも存分に楽しめる。目新しさはないが、ひとりの少女の喜びと痛みを描いたオーセンティックな青春映画としてオススメしたい。

山口拓朗

【おすすめサイト】