◆原題は「教育」というのだが、ヒロインがひとつの恋を通して、人生を学んでいくストーリーはまさしく体験学習(70点)
17歳の少女の危うさと、痛みを乗り越えるしなやかさがまぶしい英国映画の佳作。1961年、ロンドン郊外で暮らす成績優秀なジェニーは、両親の期待を背負って名門オックスフォード大学を目指していた。平凡で退屈な彼女の毎日を一変させたのが、偶然出会った年上の男性デイヴィッド。彼が教えてくれたのは、音楽会や旅行、ギャンブルなどの新鮮で刺激的な世界だった。上流階級の友人にも紹介されて大人の世界へと足を踏み入れるジェニーだったが、彼女はまだデイヴィッドの重大な秘密を知らなかった…。
原題は「教育」というのだが、ヒロインがひとつの恋を通して、人生を学んでいくストーリーはまさしく体験学習だ。誰にでも覚えがある、ちょっと生意気で背伸びした10代の日々。ジェニーの場合は優秀で早熟だったために、背伸びの丈も大きかった。華やかで怪しげで、時に不誠実な振る舞いが、大人だと勘違いし、両親や教師や友人を見下してしまうジェニーは、今の自分を一刻も早く変えたいとの焦りがあったのだろう。特筆なのはイギリスという国のコンプレックスからくる閉塞感だ。学歴のない父親が娘に希望を託すのは、いつの時代にも英国にある階級闘争の一端だし、どんな世代もフランス文化やパリへの憧れを抱いてやまない。優しく身勝手でそれでいて寂しげなデイヴィッドを演じたピーター・サースガードの絶妙な演技が印象的だが、やはり素晴らしいのは新星キャリー・マリガン。制服姿の時はあどけない女学生、ドレスに着替えて髪を結い、化粧すればたちまち大人びる。外見の二重性に目を奪われるが、内面の多彩な表現はさらに魅力的だ。終盤に、デイヴィッドの本当の姿を知ってからの表情の変化はすでに名女優の風格を漂わせる。過ちに気付き深く傷ついても、凛として前を向く彼女は、デイヴィッドのような人物には手の届かない女性へと変わるだろう。10代の少女がほろ苦い恋を経験をする。こう言えば平凡なストーリーに思えるが、その後のジェニーは巧妙に、そして誠実に嘘をつき、英国における“クラス”を学ぶはず。そのことが本作を凡百の青春ラブストーリーとは異なる深みを与え、忘れ難い作品になった。
(渡まち子)