ブラックスワン - 樺沢 紫苑

このレベルの映画はめったにないので、見ないと損する映画と言えるでしょう。(点数 100点)


(C)2010 Twentieth Century Fox

映画『ブラック・スワン』を見ました。
噂どおりナタリー・ポートマンの演技が凄かったです。
アカデミー主演女優賞の受賞も納得。
 
自らの影に呑み込まれていく演技的表現も素晴らしいですが、
プロダンサーとしてまったく不自然さがないレベルまで、
バレエを練習したその努力と根性もたいしたものです。

ドキュメンタリー風の映像も素晴らしく、
微妙に上下するカメラが不安を煽ります。

後半のストーリー展開は予想困難ですが、
物語よりも、映像と演技で観客を圧倒的に引きつけます。

精神医学的にも非常に見所があります。
現実と妄想のあいまいさ。

どこまでが現実でどこまでが妄想なのか。
本人もわからないし、観客もわからない。

リアルとの境界が引けないからこそ、
「妄想」に呑み込まれていくわけですが、
その狂気に引きづりこまれていく様が、実にリアルです。

どこまでが「現実」で、どこまでが「妄想」なのか?
このテーマの映画としては、
『ローズマリーの赤ちゃん』を思い出しますが、
それに匹敵するか、それ以上の完成度が
『ブラックスワン』にはあります。
つまり、映画史に残るレベルのものがあるということ。

精神的な体験は、非常に映像化しにくいわけですが、
その難しい精神世界を見事に映像化している点も凄いと思います。

狂気のエスカレーションが、非常に説得力を持って描かれるために、
人ごとではない。
観客も完全に狂気の世界観に巻き込まれていく怖さがあります。

白鳥が黒鳥を演じる。
これは、劇中のニナに課せられた課題である
というだけではなく、ナタリー・ポートマン自体に対する
課題でもあったはずです。

『レオン』で華々しくデビューし、
その後『スター・ウォーズ』新三部作のアミダラ女王役を演じ、
世界中にポートマンの名前を知らない人はいなくなりました。

ハーバード大を卒業し、俳優も学歴も華々しい。
「白鳥」として快進撃するの一方で、
大卒後は、『クローサー』『Vフォー・ヴェンデッタ』と
いまひとつ精彩を欠く。
 
「白鳥」イメージを脱して、
演技派女優としてステップアップしたいという、
まさにこの時期に訪れた『ブラックスワン』のニナ役
と言えるのではないでしょうか。

だからこそ、ポートマンの本気度が、
スクリーンからビシバシ伝わってきます。

この役を逃したら次はない・・・という、ニナの心境は
リアルのポートマンとも重なります。
 だからこその迫真の演技。

『ブラックスワン』をサイコスリラー、
あるいはサイコホラーと評している批評もありますが、
これをホラーやスリラーと言っていいのか、
非常に微妙なところです。

「恐怖」「不安」を題材に、観客に「恐怖」を感じさせる
という意味では間違いなく「ホラー」であるわけですが、
そこに描かれるのは、現実の延長線にあるリアルな「狂気」
であり、作り物的な怖さではありません。

ホラー映画を期待すると、良い意味で期待を裏切られるはずです。

ラストの「黒鳥」を踊るシーンは圧巻。
前半の清純、可憐なニナからの脱皮。あるいは変貌。
 
言葉はもはや不要。
演技だけでここまで伝わるのか、という
演技のおもろしさを、体感できる作品。

このレベルの映画はめったにないので、
見ないと損する映画と言えるでしょう。

樺沢 紫苑

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