ブラック・スワン - 福本次郎

アートに人生を捧げた者だけが立てる高みを映画は見事に描き切っていた。 (点数 60点)


(C)2010 Twentieth Century Fox

「白鳥の湖」の主役に抜擢されたヒロインが、プレッシャーに押しつ
ぶされていく。妄想と幻覚、悪夢と現実が入り混じり、内なる己との
葛藤に徐々に正気をなくしていく過程で得た妖しさを、胸元からあご
にかけ幾本もの筋が浮き立つほど肉体を絞り込んだナタリー・ポート
マンがホラー一歩手前の鬼気迫る形相で演じる。

NYシティバレエ団のニナは演出家のトマから白鳥の女王役に指名され
る。それは白鳥の優美さのみならず黒鳥の邪悪で淫らな企みをも体現
しなければならない難役。ニナは喜びとともに不安に苛まれていく。

妊娠を機にバレエを諦めた母の夢を背負っている故か、ニナはセック
スに嫌悪感を抱いている。一方で、公演では男心をとろけさせる黒鳥
の魔力も求められる。それには抑圧していたリビドーの解放が必須。
“踊りは正確だが感情が表現できない”とトマに指摘されたニナが、
自己主張をはじめ、ついには母と衝突する。自分を愛し育ててくれた、
だが過剰な干渉にはもう耐えられない。性的な魅力を付けるためにオ
ナニーに励む際も仮想の相手は女友だちというシーンで、母の影が彼
女の成長を妨げていたことを示すあたり、非常にシャープな構成だっ
た。

やがて心の闇と官能の境地にたどりついたニナのパフォーマンスは、
身震いするほどの美しさを纏っていく。そんな、アートに人生を捧げ
た者だけが立てる高みを映画は見事に描き切っていた。

福本次郎

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