ザ・ファイター - 樺沢 紫苑

「薬物依存症」の恐ろしさもしっかりと描いている作品、ということで精神科医の私としては、非常におすすめしたい作品です。(点数 90点)


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前回では、今年のアカデミー作品賞を受賞した『英国王のスピーチ』を紹介しましたが、今回紹介する『ザ・ファイター』は、助演男優賞(クリスチャン・ベール)と助演女優賞(メリッサ・レオ)。
アカデミー賞、演技部門での2冠を獲得しています。

心温まる感動的な物語の『英国王のスピーチ』とは対照的に、『ザ・ファイター』では、ヘビー級のパンチをくらったような強烈な衝撃を受けました。

過去の栄光にすがり、麻薬へと溺れていく、かっての名ボクサー、デッキー。 そして、地道な努力で世界チャンピオンを目指す弟のミッキーの兄弟の絆を描いた、実話を元にしたドラマ。

ボクシングの映画、あるいは兄弟愛の映画かと思いましたが、実際は「薬物依存症からの回復物語」です。

「薬物依存症からの回復を家族が支える物語」と言えば、なお親切でしょう。

「薬物依存症からの回復」とは、言葉でいうのは簡単ですが、実際は、そう生やさしいものではありません。
 
一度、依存症になると、そう簡単に薬物をやめることはできません。
なかなか抜け出せない蟻地獄。
それは、「地獄の苦しみ」といってもいいでしょう。
 
そんな地獄絵図は、見ていて決して楽しいものではありません。
つまり、『ザ・ファイター』見ると、非常につらい気持ちになってきます。
見ている観客の方まで苦しくなってくる。
だから、エンタメを期待すると完全に裏切られます。
  
しかしそれは、主人公の苦しみ、そして家族の苦悩が
しっかりと映画で描かれている、ということ。
映画としては、素晴らしい、と言えます。

クリスチャン・ベールやメリッサ・レオの演技は、アカデミー賞受賞にふさわしい、迫真の演技と言えるでしょう。

自分勝手な依存症者と、それに振り回される家族。
見ていて楽しいものではありませんが、それこそが「薬物依存症」の本質。
だからこそ、目を背けないで見ていただきたい。
 

薬物は本人の身体だけではなく、「家族」関係すら破壊します。
かけがいのない兄弟愛すらも。

そして、「薬物依存症」になると、人生を棒にふってしまいます。
全てを失う。そして、そこから抜け出すのは、並大抵の努力ではないのです。

そうした、「薬物依存症」の恐ろしさもしっかりと描いている作品、ということで精神科医の私としては、非常におすすめしたい作品であります。
 
予告などを見ると、ボクシング映画のようにも見えますが、ボクシングの試合のシーンは非常に少なく、またボクシングのシーンの演出も、
ボクシングのアクションを映像的に見せることよりも、心理劇としてのクライマックスとして描いていますので、アクションにはあまり期待しない方がいいでしょう。

樺沢 紫苑

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