婚前特急 - 小梶勝男

現代のスクリューボール・コメディーを目指した前田弘二監督の劇場公開デビュー作。テンポがよく笑えるが、登場人物のキャラクターが強烈過ぎて共感出来ないのが惜しい(点数 65点)


(C) 2011『婚前特急』フィルム・パートナーズ

列車が舞台の映画ではない。恋愛コメディーだ。
タイトルはエルンスト・ルビッチの「極楽特急」(1932)やハワード・ホークスの「特急二十世紀」(1934)を意識しているのだろう。
これらの作品から連想するのは、「スクリューボール・コメディー」という言葉だ。
余りにも古く、今や死語かも知れないが、1930年代から40年代初めごろにかけて、アメリカで流行したジャンルである。
スクリューボールは言うまでもないが野球で言う変化球の一種だ。
そこから、変人という意味にも使われる。
スクリューボール・コメディーとは、(ルビッチの「極楽特急」がそれに含まれるかどうかは異論があるだろうが)変人の男女が、たいていはいがみ合いながら、結局は恋に落ちるというストーリーである。
「婚前特急」はまさにその通り、変人男女の恋を描いており、現代のスクリューボール・コメディーを目指したのだろう。

主人公は24歳のOL・チエ(吉高由里子)。
人生を最高に楽しもうと、何と!タイプの違う5人の彼氏と付き合っている。
人生を通じて5人ではなく、一度に5人である。
包容力のあるバツイチ(加瀬亮)、リッチな年上(榎木孝明)、かわいい年下(吉村卓也)、ワイルドなバイク乗り(青木崇高)、そして、一緒にいて楽ちんな、さえない男(浜野謙太)という面々。
当分は遊んで暮らそうと思っていたチエだったが、親友(杏)の結婚を機に、5人を査定して、結婚相手を選ぶことにする。

この設定はかなり面白い。チエは現実的というには度を超していて、よく考えるとヒドイ女なのだが、吉高由里子が演じると、どうもそうは感じられない。
吉高のフワフワしたキャラクターがチエを悪い女というよりは、一種の変人にまで和らげている。
嫌な部分も笑えるのである。
テンポもよくて、セリフも面白いので、チエがこのまま主人公としてストーリーが進んでいけば、作品としては成功しただろう。

しかし、話は途中から、さえない男・田無タクミ中心になっていく。
この田無が、いわゆる空気が読めない「KY」なのだが、その空気の読めなさがやはり度を超していて、まるでモンスターのような存在になってしまっている。
チエは変人にまで和らげられているが、田無の場合は、演じる浜野謙太のキャラクターと相まって、そのモンスターぶりが全く共感出来ないレベルまで引き上げられてし
まっている。
はっきり言うと、見ていて気持ち悪いのである。

ストーリー上は、田無は最初モンスターとして登場しても、次第に観客の共感を得ていくはずなのだが、キャラクターが強烈過ぎて、最後まで殆ど共感出来ない。
田無に共感出来なければ、彼に惹かれていくチエにも共感出来ない。
惜しい、と思う。

むしろ、最後まで田無をモンスターとして描ききれば面白かったかも知れない。
別の映画になっていただろうけど。

ホラーで言えば、「13日の金曜日」や「ハロウィン」のリメークが失敗したのは、オリジナルでは完全にモンスターだったジェイソンやマイケルを、ある程度共感出来る部分のあるキャラクターとして描こうとしたことだろう。
しかし、そうするにはジェイソンもマイケルも、強烈過ぎるキャラクターなのだ。
中途半端に共感を求めても、結局は共感出来ないし、一方でモンスターとしての迫力も失
われてしまう。

とはいえ、これが劇場公開デビュー作という、新人・前田弘二監督の才能は十分に感じた。
このテンポの良さは「特急」並と言っていいだろう。

 「映画ジャッジ」は復活したが、個人的理由や震災などでレビューの方はなかなか復活出来なかった。
これから少しずつ書いていきたい。

小梶勝男

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