サロゲート - 小梶勝男

◆人々が身代わりロボット「サロゲート」に自分の体験を代理させることで、「なりたい自分」になれる近未来を描いたSFサスペンス。ブルース・ウィリスの「なりたい自分」がふさふさの金髪というのが可笑しい(71点)

 ブルース・ウィリス主演のSFアクションというと、リュック・ベッソンの「フィフス・エレメント」(1997)のような大作を予想するが、本作の上映時間は最近の映画では珍しく1時間29分しかない。ぎりぎり1時間半を切っているのである。CGによる派手な特撮場面もあり、B級というには規模が大きいが、よくある大味なSF大作とは違って、キリッと引き締まった作品になっている。監督はジョナサン・モストウ。「ターミネーター3」(2003)も大作にもかかわらずB級映画的なディテールに面白みのある作品だった。そんなモストウの持ち味が発揮された佳作。

 近未来、「サロゲート」と呼ばれる身代わりロボットが開発される。人間は自宅で椅子に座ったまま、すべてをサロゲートに体験させることで、あたかも自分が体験しているように感じられる仕組みだ。代理ロボットだから、どんな外見にも出来るし、事故に遭ったり、犯罪に巻き込まれたりしてもロボットが壊れるだけで本人は安全。人は誰もが「なりたい自分」になることが出来て、事故も犯罪もないというユートピアが描かれる。

 その結果、街中、美男美女だらけになってしまうのが可笑しい。FBI捜査官役のブルース・ウィリスが、ふさふさした金髪で登場する。これはサロゲートで、捜査官本人はスキンヘッドなのだが、やっぱりウィリスも頭が気になるのか、などと思ってしまった。サロゲートだから何となく表情が人工的で、人間に限りなく近いのだけれどどことなくロボットに見える。それを生身の役者が演じているのが最大の見所だ。笑いが「張り付いたような笑い」だったり、まばたきが極端に少なかったりする。「ステップフォード・ワイフ」(2004)のような世界がリアルに描かれている。特に、ウィリスの同僚役のラダ・ミッチェルや、ウィリスの妻役のロザムンド・パイクら女優陣は、実際の「人間」の役と、サロゲートの役と、その外見上の落差が激しく、女性は本当に化けるものだと感心してしまった。それは「映画」というヴァーチャル空間での「役」と、女優の実際の姿との関係と同じように思えて、映画の裏側を見るような面白さもある。

 ユートピアはそのまま続くはずもなく、やがてサロゲートが殺されただけなのに、本人まで死んでしまう事件が起きる。そこにサロゲートに反対する人権擁護団体や、サロゲートの開発者、企業などが絡んでいく。ストーリーはそれなりによく出来てはいるが、いろんな作品の要素を組み合わせたようで、目新しい印象はない。しかし、全員がモデルのような、どこか綺麗過ぎる人々の奇妙さは本当に楽しい。サロゲートのアクションも迫力があった。屋根から屋根へ、走る車から車へジャンプして、腕がもげても痛みを感じない。物凄い動きをしているのに、常に無表情。「ターミネーター」のアンドロイドもそうだが、外見上普通の人間が超人的な動きをするところに凄みを感じた。

 捜査官とその妻は、お互いにサロゲート同士でしか、まともに向き合えない。現実の社会でも、電話やメールでは普通に話せるのに、面と向かってはうまく話せないという人間関係が増えてきているような気がする。すぐ隣にいても直接に話しかけず、メールで連絡してくる人たちも多い。ヴァーチャル世界はもはや「現実」の一部となっている。本作にはそんなリアリティが感じられた。それだけに、スキンヘッドで中年太りのウィリスと、皺もシミもあるロザムンド・パイクが、ラストに「人間」同士として向き合う場面は感動的だった。

 「サロゲート」は実は、日本ですでに現実化している。大阪大学の石黒浩教授が開発した「ジェミノイド」で、遠隔操作が可能な、教授そっくりのコピーロボットだ。本作の冒頭にも一瞬だが、石黒教授とジェミノイドが並んで登場する。石黒教授はジェミノイドを操作して自分の代わりに講義を行なわせているという。

小梶勝男

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