黄金を抱いて翔べ - 青森 学

金塊を強奪するという前時代的なクライムサスペンスだが、だからこそ描ける濃密な人間ドラマがあるのかもしれない。(点数 75点)


(C)2012「黄金を抱いて翔べ」製作委員会

高村薫氏の小説は『マークスの山』しか読んだことが無いが、緻密な文体は分かるのだけれど、その硬質な文章と、群雄割拠する主要なキャラクタたちの活躍に目が追われるうちに内容を把握するのに疲れてしまい、いまいち私には馴染むことが出来なかった。

だが映画は錯綜したストーリーを上手く纏めた印象がする。その代わりとして相当想像力を働かせないと登場人物の背景が見えてこない。とくに幸田と彼の父との邂逅は偶然過ぎて言葉を喪う程だ。でも、たしかにいちいち登場人物のバックグラウンドを説明していたら尺が2時間そこそこでは収ら無い。だから人によってはちゃんと編集していると評価するのではないだろうか。

大阪を中心にしたロケーションが魔都の雰囲気をいかんなく発散しており良い。『ブラックレイン』も大阪が舞台だったけれど、人間の剥き出しの欲望と濃い人情を際立たせるのにこの街は似つかわしい。

ここは関西を舞台にした映画を積極的に撮り続けてきた井筒監督の独擅場というべきなのだろう。

プレスにも書いてあったがこの作品には携帯電話はほとんど登場しない。時代設定は2000年代くらいのはずなのだが、主人公たちが携帯電話を持たないのと彼らの住む住居が思った以上に生活感に溢れていて現代であることを忘れてしまう。金塊が眠るメガバンクも古風な佇まいで時代感覚を意図的に迷わせるように仕向けているようだ。たしかに男たちの骨太なクライムサスペンスに携帯電話は無粋なのかもしれない。携帯電話が有ったらまた違うストーリーに変わっていたような気がする。

時代感覚の焦点を絞らせ無い画作りは原作の発表年が古いことに関係があると邪推してしまうのだが、もしかして図星だろうか。裏を返せばこういう男くさいドラマが成立した時代はもはや過去にしかないことを証明しているようで少し寂しい気がする。このようなドラマが現代での立ち位置を獲得するならば果たしてどういった物語になっているのだろう。”時代”というのは今そのものを知ることは難しいし、的確に現代の世相を切ってみせる人も少ない。振り返って見るからこそ全体像が分かるのが時代というものの正体だと思う。この『黄金を抱いて翔べ』も時の熟成を待って映画化されたものだからこそ、見えてくるものがある。時代性を隠蔽しようとしたためにむしろ浮き上がって見えてくるのがあの時代に有ったとしか形容し得ない男たちの乾いた友情であり、社会のメインストリームから逸脱した男の焦げるような虚無感をあぶり出している。

映画を観ていると疾走するストーリーとはべつになにか郷愁めいた懐かしさがこみ上げてきたのだが、あながち間違った感想でもないだろう。

青森 学

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