譜めくりの女 - 福本次郎

幼い心に受けた傷は年月をかけて熟成する。「足を踏んだ方は忘れても、踏まれた方は覚えている」という言葉の意味が、日常生活のどこに潜んでいるか分からない恐怖。映画は、抑制の効いたトーンで無邪気な家族を追いつめていく。(60点)

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© Phillippe Quaisse

 幼い心に受けた傷は決して癒えることなく、じっくりと年月をかけて熟成する。憎しみの純度を高めるために感情を殺し、相手の信用を得ながらも、密かに爪を研ぐ姿は、氷の魔女のよう。高名なピアニストの何気ない態度で夢を壊された少女が、その無念を歪んだ復讐心に昇華してピアニストの前に現れる。「足を踏んだ方は忘れても、踏まれた方はいつまでも覚えている」という言葉の意味が、日常生活のどこに潜んでいるか分からない恐怖。映画は、抑制の効いたトーンで徐々に無邪気な家族を追いつめていく。

 音楽学校のピアノ試験に望んだメラニーは、演奏中に試験官のアリアーヌがサインをしたことから集中が途切れ、不合格になりピアノをあきらめる。成人したメラニーは、アリアーヌの夫である弁護士の秘書として働くうちに、アリアーヌの家庭に親しんでいく。そしてメラニーはアリアーヌの演奏会での楽譜めくり役を任される。

 次々と処理されていく食肉とピアノを弾く少女というアンバランスをモンタージュすることで、メラニーの胸にある脆さと危うさを表現する冒頭のシーンのあと、ピアノに鍵をかけることで自分の弱さを封印する。そして彼女に残ったのは浄化された悪意。表情を抑えた青い瞳に邪悪を宿らせたメラニーが微笑を湛えてアリアーヌに仕え、少しずつ不吉な変化を与える。アリアーヌの息子を腱鞘炎にし、パートナーのチェリストにケガを負わせ、アリアーヌの精神状態を追い込んでいく。

 ピアニストと譜めくり。その信頼が、いつのまにか力関係を逆転させ、アリアーヌはメラニーの掌中に落ちていく。そしてとどめの一撃。怨みの深さゆえモラルを失ってはいるが、知能と人の心を操る能力は抜群。そんな、恐るべき女をデボラ・フランソワが好演している。また、説明的なセリフや映像も極力廃し、観客に考える余白を与える脚本も背筋を凍らせるような余韻を残す。

福本次郎

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