演技が軽すぎて、限界ギリギリの絶望は伝わってこない(55点)
言わずと知れた小林多喜二の傑作小説の映画化だが、ポップな地獄絵図とでも呼びたいライトな「蟹工船」に仕上がった。カムチャッカ沖の船上で蟹の缶詰を加工する蟹工船で働く労働者たちが、過酷な重労働と横暴な支配者に対してついに立ち上がる姿を描く物語だ。ユーモアを漂わせ、シュールな映像を作り出したのは面白いが、演技が軽すぎて、限界ギリギリの絶望は伝わってこない。また、共産主義のソ連の船上にユートピアを見るのなら、時代設定を小説と同じにすべき。ただ、どこか線が細い西島秀俊の悪徳監督ぶりは意外にもハマッていて、原作の時代と現代との接点を感じさせた。しかしこの暗くてやるせないプロレタリア文学が再ブームになってしまう現代という時代は、やはり不安の中にあると言わざるを得ない。
(渡まち子)