妄想なのか、悪ふざけなのか。売れないタレント、マヌケな3人組、小心者のサラリーマン、そして魔窟のような警察署。物語はまったく無関係な登場人物が、実は密接につながる意外性の糸を辿るうちに壮大な虚構に落ちていく。(50点)
妄想なのか、悪ふざけなのか、いまいち冴えないヒロインが奇妙な体験を通じて一皮向けていく過程で、どこか現実とはズレた感覚で心をくすぐる。売れないタレントの不遇、マヌケな3人組、小心者のサラリーマン、そして魔窟のような警察署。物語はまったく無関係な登場人物が、実は密接なつながりを持っていたという意外性の糸を辿るうちに壮大な虚構に落ちていく。その笑いのセンスや間の撮り方は絶妙で、スタンガンの使い方や立ちションの流れていく先など、3人組のやり取りは上質のコントを見ているようだ。
グラビアアイドルのアヤメは一日警察署長を務めるハメになり、そこで元カレの刑事・春樹と再会する。そんなときコンビニ強盗事件が起き、友人のタレント・モモとマネージャーの風間が強盗に拉致される。
プロローグ、1人のサラリーマンの朝が詳細に語られる。まさに小市民といった風情で、世間に対してびくびくしながらも小さなことに幸せを感じていたりする。特にコンビニ店員とのやり取りは心情が繊細かつリアルで思わず噴出してしまう。ただ、彼のシーンは一発芸のようで、殺人事件の犯人の顔をスケッチしたという以外に後半の展開に絡んでこないのが残念だ。
また、意味不明の案内板ばかりの警察署廊下やアヤメが入る物置のような署長室などの趣味の悪いセットはどうにかならないものか。さらに春樹が刑事でありながら連続殺人犯であるというのも首をかしげる。このあたり、生活感覚と乖離しすぎていて、アヤメが抱く警察に対する違和感にぜんぜん共感できなかった。アヤメと風間の会話に象徴されるような、芸能界の崖っぷちに立つタレントの悲哀が非常によく描けていただけに、もっと警察内部のディテールにリアリティを出してもよかったのではないだろうか。トラックのカップルなども何のために登場したのか不明。脚本の段階でもう少し練りこむ必要があった。
(福本次郎)