ナレーションやテロップ、BGMをいっさい使わない演出(60点)
ドキュメンタリーは題材が勝負だが、心の病とは、ずいぶんとデリケートなテーマを選んだものだ。精神を病む人々が集う小さな診療所「こらーる岡山」の医師と、患者たち、精神科医療を取り巻く現状と課題を、淡々とした映像で描いていく。想田和弘監督は前作「選挙」で自分の作品を“観察映画”と称したが、ナレーションやテロップ、BGMをいっさい使わない演出は今回も同じだ。そのためメリハリは薄くなるが、その分、登場人物の言葉が重く感じられる。
何よりも驚いたことは、患者たちがモザイクなしで素顔をさらしていること。診療所の山本昌知医師は、辛抱強く患者の声に耳を傾ける。患者が助けを求めても、まず「あなたはどうしたいの?」と尋ねるのが印象的だ。そのためか、患者たちは自分自身のことを実に雄弁に語る。それでも私たちは、医療や福祉、引いては犯罪にいたるまで、さまざまな広がりをみせる精神病という世界の一端を見たにすぎない。家族からも疎まれる彼らの現状を変えることは難しい。安易な同情や解決を拒むような、突き放したラストは、「す」の状態を提供することで、疑問や思考を導こうという意図だ。まず知ってほしい。映画はそう訴えているように思う。
(渡まち子)