笑う警官 - 前田有一

◆誰一人警察官に見えない(20点)

 日本映画史に輝く角川映画ブームを巻き起こした大プロデューサー、角川春樹自ら監督・脚本を担当する『笑う警官』は、「150万人動員できなかったら、もう映画は作らない」と本人が語る入魂の一作である。

 北海道警の汚職疑惑が囁かれる中、元ミス道警の変死体が発見される。容疑者はかつて彼女と交際していた津久井巡査(宮迫博之)。だが、異例の射殺命令に不審を抱いた佐伯刑事(大森南朋)は、仲間を集め秘密裏に真相を探り始める。

 入魂の一作が傑作になるとはもちろん限らないわけで──というよりこの方の場合、本気で球を投げるとあさっての方角へすっ飛んでいくケースが少なくない。小説家・佐々木譲(ささきじょう)の人気シリーズ第一作を映画化した本作でも、見事なまでの暴投振りを見せ付けてくれた。

 この映画に出てくる刑事たちは雄弁で、とにかくよくしゃべる。登場人物の心の動きについて、観客が頭を使う必要はまったくない。そんな事をせずとも、まるで自白剤でも飲んでいるかのように、思ったことはすべて自分たちで口に出してくれる。

 言葉遣いも熟考したのだろうか、実に気取っている。ただ問題は、誰一人それがさまになっていない。しかしきっと脚本を書いているときは、スゲーカッコいい台詞だなぁ、などと思いながら筆を走らせていたに違いない。その、期待にあふれる監督の気持ちを想像するとやるせないものがある。

 だが考えてみれば、大森南朋をはじめとする達者な役者さんをそろえながら、誰一人警察関係者に見えない映画を作るというのも、ある意味天才的かもしれない。

 意識的かはともかく、リアリズムに背を向けたそのハードボイルドな作風は、様々な場面で、あるべき感情を反転させる特殊な効果を生んでいる。

 たとえばクライマックスでは、主人公が傷ついた自らの胸中を、これまたかっこいい台詞回しで訴える感動シーンがあるが、私などはここは笑うところなのかと思わず戸惑ってしまった。泣くべき場面で笑ってしまうとは、不思議な事が起きるものである。

 ヒロイン役の松雪泰子との恋愛沙汰も唐突感にあふれ、観客の驚きを誘う。何よりショッキングなのが、これほど現実味のない話が、実話を基にしているという点だ。

 とはいえ、こういう大味な大作こそがこの作り手の持ち味といえなくもない。だから私はあえて角川監督に言いたい。万が一150万人こなくとも、気にせず変わらずそんな映画を作り続けてほしいと。

前田有一

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