文学作品の登場人物の女心は理解できるのに、生身の女の気持ちはわからない。人間関係における感情的な偏差値は極端に低い男のウィタ・セクスアリス。もどかしいまでに不器用な三十男の、初体験をめぐる冒険を切なく描く。(50点)
超がつくほどの高学歴であるにもかかわらず、女とは縁がない。文学作品の登場人物の女心は理解できるのに、生身の女の気持ちはわからない。試験の偏差値は高くても、人間関係を築いていく上での感情的な偏差値は極端に低い男のウィタ・セクスアリス。外見に難があるわけでもない、性格がひねくれているわけでもない。ただ、男女間の恋の駆け引きにおいてはまったく何をしていいかわからず、さらにその自信のなさが肉体的な不能の原因となる。そんな、もどかしいまでに不器用な三十男の、初体験をめぐる冒険を切なく描く。
地方の大学の講師となった金井は東大大学院を出た秀才ながら、いまだに童貞。ストリップやファッションヘルスに行ったりもするが、最後までイッたことがない。ある日、学会で後輩の萌と再会し、彼女に恋心を覚え、思いきって電話をする。
金井は何事にも手本がなければうまくできない。萌をデートに誘いだすまではうまくいくのに、いざ彼女を前にすると気の利いたせりふの一つも言えないほどシャイになる。おまけに押しが弱いうえ、相手のボディランゲージが読み取れない。カメラはマニュアル世代の申し子のような金井のちぐはぐな言動を茶化すでもなく深刻ぶるでもなく、淡々ととらえていく。その抑えたトーンが、金井の「早く童貞を捨てたい」という欲望と、「嫌われたらどうしよう」というためらいをリアルに再現する。
萌とは2度チャンスが訪れるのに、一度目は萌の生理、二度目は勃起せず、果たせずに終わる。試験ならば勉強しただけ結果が伴う。男女の仲も経験を積めばその偏差値は上がるということも金井は理性では了解しているはず。しかし、失敗を極端に恐れる性格なのだろう。恋に破れ傷つくことに憶病になりすぎている。若いころなら恋の悩みを相談する友人もいたが、もはやそれすらもかなわず、ストリップ小屋に入り浸ることでしか女との性的な接点がなくなってしまう金井の孤独がしんみりと描かれていた。
(福本次郎)