弱肉強食の荒野を平和と秩序ある世界に戻すために立ち上がったケンシロウが天命を自覚するまでの、原作本で描かれなかったエピソード。しかしアニメの表現技術がTV放映された1980年代から進歩しておらず、物語も物足りない。(40点)
その優しさは自分の命を奪いにきた敵にさえ情をかけ、結局その情が甘さにつながってしまう。ケンシロウという男の性格は、大義のためには捨てなければならない命があることを認めることができず、すべての弱きものを救おうとする。しかし、それが己を窮地に陥れ、愛する者をライバルに奪われる。弱肉強食の荒野を平和と秩序ある世界に戻すために立ち上がったケンシロウが自らの天命を自覚するまでの、原作本で描かれなかったエピソード。しかしアニメの表現技術がTV 放映された1980年代から進歩しておらず、細部まで描きこまれたCGや宮崎アニメを見なれたものには古臭く、物語も作り込みが足りない。
シンにユリアを奪われた上に胸に7つの傷をつけられたケンシロウは、奴隷商人に捕まってゲッソーという要塞都市に送られる。その街の支配権を狙って南斗孤鷲拳のジュガイが軍団を率いて攻めてくる。
傷がまだ完治していないせいか、ケンシロウはなかなか本気を出さない。おとなしく奴隷商人に従い熊殺しの男と決闘させられるがここでも止めを刺さない。その間、同牢の老人に救世主の心得を説かれて徐々に使命を自覚していくのだが、なぜか雑兵に捕まって磔にされたりする。それだけダメージが深かったからなのだが、天啓を受けたとたんに超人的な強さになるのはどうしたことだろう。そんなことはどうでもいいが、せめてジュガイとの最終決戦で北斗神拳の奥義の一つでも見せてほしかった。
強大なポテンシャルを持つ主人公が奴隷だったり、街の支配者の醜く肥え太った外見など、明らかにダース・ベイダーの前日譚「スター・ウォーズ エピソード1」のパクリ。仲間の老人が実はシンの師匠で、シンに裏切られて脚の腱を切られていたというのも都合のよい設定。映画版のオリジナルストーリーに見るべきところはなく、エンドロール後のリンやバットと出会う絵のほうが懐かしさが込み上げてきてよほど胸が熱くなった。やっぱりケンシロウは「おまえはもう死んでいる」というセリフが似合う。
(福本次郎)