牛の鈴音 - 渡まち子

◆様々な対比を描きながら老夫婦の日常を静かにみつめる本作は、急速に成長を遂げた韓国社会の失われたものへの哀悼のように思える(70点)

 牛と老人の絆を不思議な温かさと哀しみで包む良質ドキュメンタリー。79歳のチェじいさんは昔ながらの農法にこだわり、来る日も来る日も40歳の老牛を使って畑を耕している。牛の寿命は15年が平均だというからこの牛は人間なら100歳以上だ。若い牛も飼っているが使い物にならない。じいさんは相変わらず老牛を働かせるが、やがて牛は立ち上がれなくなる…。

 3年余りの月日をかけたこの労作ドキュメンタリーの面白さは、さまざまな“対比”にある。チェじいさんは足取りもおぼつかない老牛に農作業をさせ荷車を引かせて酷使しているが、その一方で、毎日自らの手でエサを作り丁寧に世話をしている。可愛がっているのか虐待しているのかスレスレの関係性が続くのは、信頼がベースにあるからこそだ。鳴き声も発しない牛と寡黙なチェじいさん。一方、常にグチッているおばあさんはどこかユーモラスで、最初から最後までしゃべり続ける。近代化する隣の畑と、昔ながらの農法にこだわるチェじいさんの農作業。様々な対比を描きながら、老夫婦の日常を静かにみつめる本作は、急速に成長を遂げた韓国社会の失われたものへの哀悼のように思える。チェじいさんが農法や老牛を飼うことを変えないのは、残り僅かの自分の人生を、変化せずに送りたいとの願いからだろう。

 老牛は一度は牛市場で売られるが、買い手がつかず「老いぼれ牛は、使えないし、食べるにしても肉がかたい」と言われてしまう。その時に牛の眼に濁ったような涙が光るのが印象的だ。牛は首に付けられた鈴の音だけで存在を主張するかのよう。ついに死のときがやってきて、チェじいさんはもちろん、いつも小言を言っていたおばあさんまでも牛に優しい言葉をかける。牛を丁寧に埋葬した後に残されたのは、鈴だけ。黙々と働き名前もない牛と老人の、確かな絆を感じて胸が熱くなった。韓国で大ヒットを記録した本作のイ・チュンニョル監督は、これが初監督。地味ながら堅実なこんな記録映画が韓国で圧倒的に支持されたことは興味深い。素材を丁寧に追った内容とじんわりとした感動が、観客の琴線に触れたに違いない。

渡まち子

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