母べえ - 福本次郎

時代の波に呑み込まれ、戦争のうねりに翻弄された家族。悪化する情勢の中、両親と2人の娘、その家庭に出入りする大人たちとの日常を丹念に拾い上げることで、ささやかな生活の中に人生の真実がたたずんでいるということを描く。(50点)

 時代の波に呑み込まれ、戦争のうねりに翻弄された家族。徐々に悪化する情勢の中、両親と2人の娘、そしてその家庭に出入りする大人たちとの日常を丹念に拾い上げることで、ささやかな生活の中にこそ人生の真実がたたずんでいるということを描く。いちばん幸せなものは何か、それは貧しくても、一家そろって食卓を囲むこと。その情景を通じて、国家権力の前では個人の命や尊厳など取るに足らないものであるが、そういったものをうまくやり過ごしながら生きながらえる小市民の知恵が細かく描写されている。

 治安維持法違反容疑で父親が逮捕された野上家。母べえと2人の娘の家に、野上の教え子・山崎が出入りするようになる。以後、山崎は家族の一員のようになり、野上家になじんでいく。母べえは生計を立てるために小学校の代用教員になるが、日に日に生計は苦しくなる。

 夫が投獄され、少ない給料でやりくりしながら暮らしているはずなのに、母べえにはその苦労があまりにじみ出てこない。たとえばあかぎれの手や、つぎはぎだらけの衣服を身に着けているならともかく、家では和装、学校では洋装とその凛としたたたずまいは少しも乱れることはない。それは子供の前では決して弱さを見せないという彼女のプライドの高さを象徴している。だが、ふと垣間見せる意外な一面に人間らしさを感じるものだ。少なくとも日々の糧に困っているという様子に見えないのがとても残念。窮屈になっていく世相に対する彼女の本音、というか登場人物全員心情を、すべて笑福亭鶴瓶扮する奈良のおじさんに代弁させるのではなく、母べえの口から語ってもらいたかった。

 やがて野上は獄中死、山崎も戦死する。夫が妻子をいかに思っていたか、山崎がどれほど母べえを慕っていたか、彼らの死後明らかにされる。野上の手紙と山崎の遺言は、残された母べえと2人の娘に、人を愛する気持ちは、たとえ国家権力や戦争でも奪い去ることはできないということを伝えたはず。しかし、ヒロインに吉永小百合というイメージ重視の女優を使ったせいで、きれいごとにしか見えないリアリティに欠ける作品となってしまった。戦争に負けたことを「終戦」と呼ばず「きちんと「敗戦」と言っていたことには良心を感じたが。。。

福本次郎

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