正義のゆくえ I.C.E.特別捜査官 - 福本次郎

自由の国なのに権利を制限されて、息を潜めるように生きている、不法入国・滞在者という新たな被差別階級の実態をリアルに再現する。対する米国人も、救いの手を差し伸べる者、弱みに付け込む者、同情を示す者と多種多様だ。(70点)

正義のゆくえ I.C.E.特別捜査官

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 豊かな暮らしを求めて、政治的な迫害から逃れるため、夢をかなえるため、貧しい家計を支えるため、人々は国境を越えて自由の国を目指す。しかし、自由を保障されるには現地で生まれるか、特殊な技能を持つか、難民と認定されなければならない。それ以外の者は、権利を制限されて息を潜めるように生きている。そんな、不法入国・滞在者という新たな被差別階級の実態をリアルに再現する。対する米国人も、救いの手を差し伸べる者、弱みに付け込む者、法に厳正な者、一定の同情を示す者というように多種多様だ。

 移民局の捜査官・マックスは縫製工場にガサ入れし、ミレアという女を逮捕・強制送還する。彼女の息子をメキシコの実家に送り届けるが、ミレアは息子を探しに再び米国に向かっていた。マックスの同僚・ハミードはイラン系で父の市民権取得を目前にしていたが、妹の素行不良に心を痛めている。

 他にも、韓国、オーストラリア、南アフリカ、ナイジェリアと出身も境遇も違う人々の現状がスケッチされるが、もっとも切実なのはバングラディッシュ系の少女タズリマだ。学校で911の犯人に理解を示すような発言をしたためにFBIの家宅捜査を受け、危険人物として一家を引き裂かれた上で追放される。当局の姿勢は過剰反応とも思えるが、それほどまでに本土に対する攻撃が米国人には恐怖のトラウマになっている事実。あえて「言論の自由」を訴えるタズリマも極端に KYだが、コミュニストとテロリストに対する不寛容の徹底ぶりが怖ろしい。また、韓国ギャングに遭遇したハミードがマスクを被った少年の素性を見抜き説得するシーンでは、ハミード自身家族の名誉を汚す妹を持つだけに彼の言葉の一つ一つがしみじみと身にしみる。家族の存在が不法入国者たちの重荷である一方、良心のよりどころでもあるのだ。

 チャンスを与えられる者と未来を奪われる者、その違いは紙一重でしかない。国を捨てる積極的な理由のない日本人は、むしろこの作品の米国人と立場を同じくするが、少なくとも相手の足元を見て言いなりにするようなことは戒めなければならない。

福本次郎

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