日本以外全部沈没 - 前田有一

タイトルと宣伝で客がくればよし、というだけの作品(10点)

 小松左京の大ベストセラー『日本沈没』には、筒井康隆による有名なパロディ短編『日本以外全部沈没』がある。これは、その実写映画化。

 2011年、天変地異により日本以外の国が続々と沈んでいった。唯一残った日本列島には、各国から難民が押し寄せ、日本中の治安は悪化した。かつての大国アメリカや、反日国家のVIPも、いまや日本国首相にペコペコし、ハリウッドスターも端役で生き延びるしかない時代となった。日本人は特権階級となり、その権力にあぐらをかいて傲慢になっていったが、刻々と破滅のときは近づいていた。

 映画『日本以外全部沈没』を、『日本沈没』に対抗しうるパロディ映画と勘違いしてはいけない。これは、河崎実という監督の映画がどういうものか、最初からわかっている一部のマニアックな人々だけが見ればそれで十分という、特殊な映画である。思わせぶりな予告編や、印象深いタイトルに興味を持ったフツーの人は、悪いことは言わないからやめておいたほうがよい。なおこの点数は、そうした一般の人々を対象にしたものであり、河崎実ファンに対してはまったく当てはまらない。

 映画『日本以外全部沈没』は、「竹島はどうなるのか」などと、タイムリーなネタを宣伝に使っているが、そんな政治的なテーマなど全くといっていいほど扱っていない(紛争中の領土問題を、冗談半分で扱われるのを不愉快に感じる人がいるという事実を、宣伝会社はおそらく想像したこともないのだろう)。超低予算で、10日ほどで撮影された、ろくな主張もない単なるチープな脱力ドラマである。

 作り手には、オリジナルを深く研究する時間も予算もなければ、この物語の舞台となる国際政治についての知識もない。だから知的なユーモアなど望むべくもないし、社会風刺だってできるはずもない。結局、いつものバカ騒ぎをやるしかなかったという、ほとんど同情したくなるような内容だ。

 金正日や中韓ネタもあるが、笑いとしては底が浅く、ただ面白そうだから出したというだけ。素人丸出しで痛々しい。バカな映画ではあるが、バカ映画にすらなれていない。内容は、一見外国人が激怒しそうなものだが、あまりにレベルが低すぎて、これを見て怒る外国人などほとんどいまい。

 『日本沈没』が東宝の手によって大作としてリメイクされるということで、いっちょ便乗してやろうというだけの安直企画。原作に対する愛も尊敬も感じられず、準備期間の不足も明らか。スタッフの人選にも疑問が残る。

 小規模なレイトショー公開ではあるが、最初にあげた人々以外の人がこれを見る理由は、一つも見当たらない。

前田有一

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