戦争の理不尽さをしっかりと描写しながらも失わない希望を基軸に置いたストーリーに救われた気持ちになった。(点数 88点)
(C)DreamWorks II Distribution Co.,LLC. All Rights Reserved.
2時間27分の長尺を感じさせない非常に良く作り込まれた作品だった。
イギリスの美しい草原地帯を背景に少年とジョーイと名付けられた仔馬との運命的な出会いから第一次世界大戦が始まり出征、戦渦を生き延び再会を果たすまでの間に、ジョーイがイギリス軍とドイツ軍双方に使役されつつ、そのどちらもが悪とは断じきれない戦争の不条理さをジョーイの視点を通して描かれている。
ソンムの戦いではMarkの名を冠する戦車が初めて実戦投入され映画の中でもその偉容をスクリーンにさらし、また塹壕戦の緊張状態や使用される毒ガス(恐らくはマスタードガス)が作品に登場し戦争の苛烈さ呵責の無さを訴えている。
序盤でもイギリス軍に徴発されたジョーイが士官の軍馬となり奇襲をドイツ軍に仕掛けるのだが、奇襲したのにもかかわらずドイツ軍の機銃掃射の前に敢え無く潰走させられる。
このように騎兵という騎士道精神の残滓のようなロマンティシズムは過去のものとなり、あるのは人間の持つ想像力が時にどれほど残酷に機能するのかを証明するような非人道的(殺し合いに人道もなにも無いのだが)な消耗戦になっている。
映画は、本来平和的ないきものの馬の視線を通して戦争の惨たらしさを告発している。
人間のエゴに巻き込まれなければ平和に暮らせたはずの動物たちが戦争に巻き込まれることも無かったろうに、つくづく人間とは業の深い生き物だ。
この人間のエゴが少年とジョーイを引き離し、そして憎しみ合うはずの者たちの善意によって再び引き寄せ合う絆を映画は希望と共に描いている。
戦争は残酷で、無慈悲で、救いがないのだけれど、無いはずなのだけれど、手繰り寄せる少年とジョーイの絆のように、ジョーイに想いを託す人々の切なる願いが戦火を越えてリレーされるさまは悲惨さのなかにあっても希望を失わない力強さが感じられた。
戦争シーンはスピルバーグが手掛けた『プライベート・ライアン』に引けを取らないくらいの生々しさが有ったが、グロテスクに思われるほどリアルな描写は幾分抑えられており、とりあえずエチケット袋無しでも観ることが出来た。
これは内田樹先生が指摘されたように、琵琶法師が平家物語を語って平氏の無念を呪鎮したようにスピルバーグは戦争を克明に描くことで、当時犠牲になった人たちの魂を弔っているのだと思う。
スピルバーグは人間ではない何者かを映画の主軸に置くと俄然力を発揮するタイプらしい。
そもそも『激突!』も主役はクルマという無生物だったし、『JAWS』は鮫。『E.T.』は宇宙人。『ジュラシック・パーク』は恐竜だ。人間が主軸である作品ももちろん有るのだが、手堅くヒットを飛ばしたのは人間が主人公で無いものが多い。
ほんとうはスピルバーグは人間が苦手なのではないのだろうか?
(青森 学)