復讐者に憐れみを - 前田有一

痛すぎる残酷描写は特筆もの(60点)

 『JSA』『オールド・ボーイ』のパク・チャヌク監督による、韓国初の“ハードボイルド映画”と銘打たれたクライム・ドラマ。これと『オールド・ボーイ』と現在製作中の新作をあわせて、“復讐三部作”と呼ぶ。もちろん、テーマが同じだけで内容につながりはない。

 聴覚障害を持つ主人公(シン・ハギュン)は、闘病中の姉のために腎臓移植を申し出るが不適合だった。やむなく彼はヤミ医者に頼み、自らの腎臓と引き換えに適合腎臓を譲り受けることにした。ところが摘出手術が終わり目覚めてみると、命銭の退職金と腎臓を盗まれ逃亡されていた。絶望した彼は、極左活動家の恋人(ぺ・ドゥナ)にそそのかされ、金持ちの子供の誘拐を実行する。

 主人公を含め、主要3人ともマヌケそのものの行動をとる。「キミたちはただ映画を面白くしたいんだね」と突っ込みたくなるようなお馬鹿な動きをするので笑える。彼らの行動原理にリアリティはない。

 この映画でリアルな点があるとすれば、それはただひとつ、”残酷描写”だ。とにかく痛い! 残酷! 悲惨!のオンパレードである。それはたとえるならカミソリで……いや、薄い紙で指をスパーっと切ってしまったときのような「実感を伴う痛み」だ。気の弱い人が見たら貧血を起こしてしまいそうな描写が次々現れる。この監督は単にこの映画で「イタイもの」を見せたかっただけじゃねえのか? と怒り出す人が現れそうだ。

 人気女優のヌード(スレンダーなナイスバディの彼女、腰の動きがリアルで笑える)が見られるというのに、韓国ではたったの2週間で上映打ち切り。まあ、こんなに悪趣味な映像はめったにないから、理解できなくもないのだが。

 口のきけない主人公や、悲しみから殺人鬼に変貌する男、反社会的ながら魅力がある女、どの人物も迫力のある演技を見せてくれる。ストーリーより彼らのキャラクターを楽しむべき作品といえよう。そして何より韓国映画史上トップクラスの強烈なイタタタ描写。それなりにインパクトがあるから、個性的な映画が好きな方は見ておいて損はない。そんな映画だ。

前田有一

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