◆戦争やテロの恐ろしさや悲しさを子供の目線で描く(75点)
イラン映画界の巨匠モフセン・マフマルバク監督の次女ハナの長編劇映画デビュー作。彼女は8歳の頃に『おばあさんが病気になった日』という30分もない短編ドラマを撮り、14歳で『ハナのアフガンノート』(長女サミラ監督作『午後の五時』のメイキング的ドキュメンタリー)という長編ドキュメンタリーを撮った。そして、19歳になった頃、監督第三弾である本作を完成させた。
舞台はアフガニスタンのバーミヤン。6歳の少女バクタイ(ニクバクト・ノルーズ)は、隣に住む男の子アッバス(アッバス・アリジョメ)が読み書きの勉強をしていることに影響を受け、自身も学校に通って勉強したいと強く思う。だが、学校で勉強するにはノートとペンが必要ということで、バクタイは金を稼ぐべく街に出て卵売りの仕事を始めるが……。
バクタイが卵を売ったり、アッバスが通う男子校に入っては追い出されたり、数人の男の子たちの戦争、処刑ごっこに巻き込まれていじめられたり、女子校に入ったりといった描写は、児童向け冒険モノのような感じで描かれている。
微笑ましい冒険劇である一方、戦争やテロの恐ろしさや悲しさを子供の目線で描いて観る者に訴えかけており、本作の一番印象深いポイントだと言える。それが、バクタイが数名の男の子たちにつかまってしまう戦争、処刑ごっこのシーンだ。子供たちが木の杖を銃に見立てて銃撃戦を再現し、バクタイがやっとの思いで入手したノートが彼らに奪い取られて紙飛行機が作られ、爆撃機に見立てて飛ばす。さらに恐ろしいのは、両目と口の部分だけを穴開けした紙袋をバクタイに被らせて洞窟の中に連れ込み、その中には同じく紙袋を被らされた女の子が立たされているシーンだ。子供たちがここまで本格的な戦争ごっこをやっていることにひどく驚愕させられるが、それはアフガニスタンで起きた戦争等が子供たちに強い影響を及ぼしているからだと思える。この戦争、処刑ごっこをしている無邪気な子供たちが成人し、兵士となってリアルな戦争で人々を殺傷していくのかと思うと本当に恐ろしくて悲しい。
(佐々木貴之)