半分の月がのぼる空 - 福本次郎

◆思いが純粋なほど喪失感は深く、時間がたつほど自責の念が強くなる。少年と難病の少女の恋という手垢の付いたテーマながら、不器用でも懸命に体当たりする高校生ならではのまっすぐな感情をノスタルジックな映像に焼きつける。(70点)

ネタバレ注意! この批評は結末に触れています。

 その思いが純粋なほど喪失感は深く、時間がたつほど自責の念が強くなる。好きな気持ちに素直になれない出会いのころから、一緒にいるだけでときめいて仕方のない時期を経て、やがてつらい別れの後に悲しい記憶として胸の重しとなっていく。映画は、少年と難病に侵された少女の恋という手垢の付きすぎたテーマながら、不器用でも懸命に体当たりする高校生ならではの感情を、ノスタルジックな映像に焼きつける。主人公のまっすぐに人を思いやる姿が何の衒いもなく描かれ、過ぎ去った青春の日々を思い出させてくれる。

 肝炎で入院中の祐一は心臓病で療養中の里香と知り合い、里香のわがままに振り回されるうちに彼女に惹かれていく。ある夜、砲台山に登りたいという里香の願いを叶えるために祐一は彼女を連れて病院を抜け出すが、山の頂上で祐一が倒れてしまう。

 子供のころから入院続きだった里香にとって、祐一は唯一外界とのつながりを持つ同世代。カムパネルラに共感するあたり、死を間近に迫った運命と感じている。そんな彼女に生きる喜びを教え、病気と闘う勇気を取り戻させようと祐一は奮闘する。文化祭の芝居でいきなり里香が主役を演じるのは飛躍が過ぎるが、自分の命は祐一にとってもかけがえのないものであると理解した里香は、手術を受ける決心をする。このあたり、ベタな展開を正攻法でとらえ、ただ里香の回復を願う祐一の混じりけのない心に胸が熱くなった。

 転院する里香を見送るシーンの後、病院の医師が少女に声をかける。その少女は里香ではなく、さらに不良っぽいボーイフレンドが彼女の手術をしてくれと医師に頼む。何の説明もなく、なぜ若い恋人同士が祐一と里香から突然別人になったのかわからない。帰宅した医師の家に祀られた里香の遺影で、初めてこの医師が成長した祐一の“現在”で、この物語は祐一の回想だったことが明らかになる。見る者の意表を突いた仕掛けが、「セカチュー」の換骨奪胎として見事に機能していた。後日談がやや長いのが気になったが。。。

福本次郎

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