劇場版“文学少女” - 渡まち子

◆残念ながらミステリーと呼べるほどのドキドキ感は希薄。その分、思春期の少年少女たちの心の葛藤や切なさは全開だ(55点)

 野村美月の人気ライトノベル「文学少女」シリーズの映画化。高校に入学した新入生・井上心葉は、本をちぎって食べてしまうほど物語を愛する文学少女・天野遠子に、無理やり文芸部に入部させられてしまう。それから1年後、文芸部が設置した“恋愛相談ポスト”に不思議なイラストが描かれた手紙が入っていたが、その絵は宮沢賢治が描いた落書きと同じだった。誰が、何のために? 遠子と心葉は、手紙の贈り主とその意図を探り始めるのだが…。

 文学と作家が謎解きに重要なポジションを占める“文学少女”シリーズ。この劇場版では、宮沢賢治と「銀河鉄道の夜」が登場する。だが、残念ながらミステリーと呼べるほどのドキドキ感は希薄。その分、思春期の少年少女たちの心の葛藤や切なさは全開だ。覆面作家である心葉(ことは)には、かつて彼に物語の魅力を教えてくれた作家志望の少女・美羽(みう)との過去に関するトラウマがあり、そのことが事件を引き起こす。映画は心葉の一人称で語られるが、軸として存在し話をエスコートするのは「ごらんの通りの文学少女よ」と自分のことを紹介する、心葉の先輩の天野遠子(とおこ)だ。活字離れが叫ばれて久しい今の時代、こんな女の子は危機遺産なみの貴重な存在。彼女の名前が遠子という、今は少なくなった“子”が付く古風な名前であること、常識はずれなほど長く伸ばした三つ編みの髪や、「ハチミツを流し込んだように金色に輝く夕方の部室が好き」などという、日常会話では絶対に使わないであろう詩的な言い回しのセリフがブレンドされて、今や死語になりつつある“文学少女”のイメージを形にしていく。心葉の間違った優しさにハラハラし、美羽の歪んだ狂気にひきずられるが、彼らを正しい“銀河鉄道”に乗車させてくれるのが、文学を愛しすぎる少女・遠子なのだ。

 美しくて悲しい童話「銀河鉄道の夜」を、ビジュアル化したシーンには、独特の甘い味わいが。これを見て、宮沢賢治を読んでみようと思う人がいれば、それだけでこの映画の存在価値があるというもの。「銀河鉄道の夜」と同じポジションにいる登場人物と自分を重ねてみることで、物語がスッと寄り添ってくる。これこそが本物の文学の力だ。エンドロールの後に、成長した心葉と遠子の小さなエピソードがあるので、最後まで席を立たずに見てほしい。

渡まち子

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