僕は君のために蝶になる - 福本次郎

愛した記憶はあるのに、愛されたという確証が得られずに成仏できない男。恋人を失った喪失感から精神安定剤に頼っている女。お互いに相手に未練を残したまま心の傷を癒せずにいるふたりが再会し、確かめたかった言葉を探す。(40点)

 愛した記憶は間違いなくあるのに、愛されたという確証が得られないゆえに成仏できない男。恋人を失った喪失感に苛まれながら精神安定剤に頼っている女。お互いに相手に未練を残したまま、心の傷を癒せずにいる。そんなふたりが再会し、確かめたかった言葉を探すうちに新しい人生を見つけていく。映画は、不慮の事故で突然終わってしまったふたりの関係だけでなく、父親との確執、謎の青年、そして新しい希望を見つけるまでを描く。ただそのトーンが中途半端で、映像からは描きたいテーマの主張が感じられない。

 法学部生のエンジャはアトンという学生と付き合っていたが、些細なことでケンカした上に、アトンは交通事故で死んでしまう。3年後、弁護士の助手として働くエンジャはアトンの幽霊を見るようになる。そんなときシューというチンピラの弁護を担当する。

 エンジャが薬を止めることでアトンの姿が見えるようになるのだが、最初は薬効が切れたせいで幻覚を見ていると思っていたエンジャが徐々にアトンを受け入れる。しかし、彼女の元に現れるのに、なぜアトンは縫合痕だらけの痛ましい体を見せるの必要があるのか。エンジャの精神状態を考えれば、ショックを与えるより受け入れやすい方法を選ぶべきだ。

 また、シューがエンジャに近づいた意図はどこにあったのだろうか。探偵のようなこともするようだがバックグラウンドは不明。いつの間にかアトンの父と同居までしている。さらにアトンと同じようにバイクに乗って交通事故に遭ってしまうのだ。このあたりシューの存在意義と動機がミステリアスで、アトンやエンジャとのかかわりが見えてこないまま物語は収束に向かう。結局、アトンはエンジャの胸の内を確かめ、父親に感謝の気持ちを伝えて天国に旅立つ。死者の魂を象徴する黄色い蝶が舞うシーンは美しく、やっと安息を得たという穏やかな感情だけは非常に強く伝わってくる。一方で、もう少し山場のあるエピソードを用意してほしかった。

福本次郎

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