人間失格 ディレクターズカット版 - 前田有一

◆アニメのレベルは高いのだが(45点)

 古典を含む文学作品というものは、そうそう爆発的に売れるものではない。誰だってエンタテイメントの方が楽しいのだから当たり前だが、それを覆し、出版業界を驚かせた事件が2007年に起こった。それは、週刊少年ジャンプの人気漫画家たちに、そうした小説の表紙を描いてもらったところバカ売れしたというものだ。

 太宰治の『人間失格』を、『DEATH NOTE』の主人公ライト風に描いた小畑健による表紙を覚えている人も多いだろう。有名な古典は、きっかけさえあれば読みたいと思っている人が多く、文字通り表紙買いを狙う戦略が有効であることを示した形だ。

 このインパクトは、やがて今年2009年の秋からはじまったマッドハウス制作によるテレビアニメ・青い文学シリーズにつながる。『人間失格 ディレクターズカット版』は、その中で放映された全4話の『人間失格』を再編集。冒頭に主人公の声を演じた堺雅人による語りと、本編に数カットの新シーンを加えた劇場版である。

 「恥の多い生涯を送って来」たと語る男、大庭葉蔵(声:堺雅人)は、裕福な生まれながら幼いころから他人に心を開かず、仮面をかぶるような人生を送ってきた。ある日、官憲に追われるところを恒子(声:朴ロ美)という女に救われ、そのまま一夜を過ごした大庭は、その後のある会話のやり取りから本気で死ぬことを考える。

 『サマーウォーズ』のヒットが記憶に新しいマッドハウスによるアニメーションは、テレビ放映用とは思えぬくらいで、劇場公開したい気持ちもわかるほどにクオリティが高い。追加シーンは少ないが、大スクリーンで見直すに値するものといえるだろう。

 ストーリーに起伏が乏しく、原作を未読のものには主人公の人格が崩壊に至る最初の原因がつかみにくいという問題点も残る。ただし、文学作品を味わうときのように、繰り返し鑑賞することで理解できる程度には示されている。アニメーションのクオリティは複数回の鑑賞に堪えるものだが、果たしてそこまで人々の興味をつかめるかどうか。

 人間、誰でも落ちかねない転落ループへの道を、これまた誰でも共感できるように仕上げてしまう恐るべき太宰マジックを再現するのに、親しみやすいアニメという媒体は有効と思われるが、さすがにその域まではまだ到達していないように思える。

 小畑健原案によるキャラクター、堺雅人の演技力、そして魅力的な声も貢献しているが、それでも超えられない壁が存在する。筆一本で達成してしまった太宰治の凄みを、思わず感じずにはいられない。

前田有一

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