九月に降る風 - 前田有一

台湾で高く評価された青春ドラマ(55点)

九月に降る風

© 2008 Mei Ah Entertainment Group

 青春映画というジャンルは、万国共通に作ることもできるがその逆もできる。エピソードに時代性・地域性を加えるほど、深い領域まで観客に共感してもらうことが可能だが、作品としては後者に近づく。広く浅くか、狭く深くか。『九月に降る風』は比較的後者、ドメスティックな台湾人アラサー男子向けの青春ドラマだ。

 96年、台湾球界がスキャンダルに揺れる事になる時代。野球好きの高校3年生タン(チャン・チエ)は、不良の烙印を押されながらも、かけがえのない仲間たちと遊びまわる幸せな日々をすごしている。グループのリーダー、イェン(リディアン・ヴォーン)とは親友同士だったが、浮気っぽい彼の態度に悩む恋人ユン(ジェニファー・チュウ)の相談に乗るうち、恋心が芽生えていく。

 その年の台湾映画界で最高の評価を得た青春ムービーは、時代を表す球界の大事件をうまく物語に絡めつつ、なつかしエピソードを畳み掛ける構成。

 夜中のプールに素っ裸で入ってビールを飲むとか、「あるある」的なリアルなアイデアの数々は、脚本も書いたトム・リン監督の実体験によるところが大きいとの事。裸にはならなかったが、そういえば私自身、そんな事をした記憶がある。

 そんなわけで、本作で描かれる小ネタの中は、日本人にも響く部分がいくつかある。日本の漫画本が背景に見受けられるなど、台湾の若者と自分たちの共通項を見て、興味深く感じる人も多いはずだ。同時に、「違い」の部分についても。

 異文化を擬似体験できる『九月に降る風』は、台湾の人々の内側、あるいはルーツのようなものを覗き見る面白さがある。逆に言えば、そこに楽しさを見出せない人、青春映画に感情移入したい人にはあまり向かない。

前田有一

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