中国の植物学者の娘たち - 福本次郎

◆しっとりとした映像からは濃密な葉緑素が漂いだすよう。生い茂る緑と立ち込める霧、中国南部の湖に浮かぶ植物園、そこで繰り広げられる禁断の愛は抑圧されてきた感情を爆発させる。しかし、設定に意外性がなく展開が通俗的だ。(50点)

ネタバレ注意! この批評は結末に触れています。

 しっとりとした映像からは濃密な葉緑素が漂いだすよう。生い茂る緑と立ち込める霧、そこには新鮮な酸素の香りと生命の息吹が充満している。中国南部の湖に浮かぶ植物園、そこで繰り広げられる禁断の愛は、20世紀末にもかかわらず、まだまだ封建時代の名残を残すような女性の地位の低さを背景にする。父にこき使われる娘、夫に虐待される妻。ふたりの若い女が男の固定観念から逃れるかのように求め合う情景は、抑圧されてきた感情を爆発させるかのような激しさ。しかし、設定に意外性がなく、物語の展開が読めてしまう。

 山深い植物園に住むチェン教授の下に研究にやってきたミンは、教授の娘・アンと仲良くなる。その後、帰省してきたアンの兄・タンがミンにプロポーズ、ミンはタンと結婚することでずっとアンと一緒にいられると、その申し出を承諾する。

 ミンは孤児院育ち、アンも幼いころに母を亡くし、ふたりとも母をほとんど知らない。そしてチェン教授もタンも家族の女を自分の所有物のように見ている。教授に家政婦のように扱われるアン、処女ではなかったという理由でタンに折檻されるミン。男たちの粗暴な振る舞いに耐える女たちが結束を固め愛を深めていくのは、同じ境遇に置かれているからだろう。孤立した湖の上という環境で逃げ場のないふたりは愛し合うことでしかお互いの傷を癒し慰めあうことができない。燻蒸された薬草の上で体を求め合う幻想的なシーンはその追い詰められたような哀しさゆえ、激しくかつ美しい。

 結局、アンとミンの関係が教授にばれ、決定的な悲劇の末にあの世で永遠の愛を全うするという結末は余りにも予定調和的。教授がミンの緑の瞳を嫌う理由とか、アンの母親が早逝した秘密とか、もう少しふたりが運命的にひきつけあうような動機付けが欲しかった。ゆったりと流れる時間のなかで熟成されるような自然と人間の感情を繊細に捕らえた美しい映像とは対照的に、訴えるものが少ない作品だった。

福本次郎

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