◆お人よしのヒロインが事件に巻き込まれ、誰が味方で誰が敵かもわからないまま東京中を逃げ回る。携帯電話の、すぐに連絡を取れるけれどつながらなかった時のフラストレーションを再現し、ミステリーの趣を加えた脚本が秀逸。(60点)
舌足らずな話し方と困惑顔、感情がすぐに現れるヒロインの言動が保護本能を刺激する。疑っていても押し切られ、騙されていると気づいていてもいいなり。お人よしの彼女が殺人事件に巻き込まれ、誰が味方で誰が敵かもわからないまま東京中を逃げ回る。離れているときは話せるのに同じ場所にいるのにすれ違う、そんな携帯電話の、簡単に連絡を取れるけれどつながらなかった時のフラストレーションを再現しつつ、ミステリーの趣を加えた脚本が秀逸。全体的に漂う軽さとユルさをコミカルに処理して絶妙な味わいを醸し出す。
駆けだし女優のめぐるはオーディションを受けに行く途中、着信音が鳴っているケータイを拾う。持ち主に返そうとするが何度も会えずにいるうちに、そのケータイをチンピラと警察が追っているのが判明。身の危険を感じためぐるは姿を隠す。
思い込みと勘違い、お互いの顔が見えず自分の持つ情報だけで相手の言うことを判断する様子がコントのように面白い。そして、ケータイの元の持ち主・矢島の言い分を信じたり信じられなかったりするめぐるの目まぐるしく変わる表情がハラハラさせながらも守ってあげたい気持ちにさせる。なにより、めぐると矢島が刑事たちに追い詰められていく途中ケータイで言葉を交わすシーンは、決して直接出会わないふたりが信頼を深めていく点で、人間の善意を信じているようで心地よい。
やがて、めぐるは刑事たちに命を狙われるが、矢島に助けられ、逆に危機一髪の矢島をめぐるの機転が救う。結局ふたりは手を握るだけで顔を見ずじまいのまま一件落着。ここでも、すぐそばまで来ているのに一線を越えないというもどかしさ。そこをサラっと受け流すラストシーンもさわやか。全編、宇野実彩子のとぼけたオーラが全開で、緊張感と脱力感が見事にコラボした作品だった。
(福本次郎)