ラブリーボーン - 岡本太陽

◆強姦された上に殺害された少女の死後を描いた小説をP・ジャクソンが映画化(50点)

 「小説を完璧に映画化するのは不可能だ」、とピーター・ジャクソンは言う。ニュージーランドの鬼才の監督最新作『ラブリーボーン(原題:THE LOVELY BONES)』では「死後」という、それこそ人それぞれ全く考え方の違う題材を扱っているため、原作である2002年のアリス・シーボルドの同名ベストセラー小説からは重要な要素だけを拾い、物語を再構築する形をとった。よって、"本と同じには成り得ない"という事をかなり意識した作品となっている。

 本作は、ピーター・ジャクソンの作家性を強く押し出した様なファンタジックな作品で、特にビジュアルに力を注いでいる。またジャクソン氏は、小説のファンではなく、映画オリジナルのファン獲得を目指し、映画全体を芸術的で怖可愛い世界観で埋め尽くした。しかし、その作戦は功を奏さず、物語あってこその映画であるにもかかわらず、それが非常に希薄なものに感じられるのだ。それに、映像もどこかやり過ぎという印象を受ける。

 1973年12月6日、14歳のスージー・サルモン(シアーシャ・ローナン)が隣人ジョージ・ハーヴェイ(スタンリー・トゥッチ)によって殺害された。彼女の家族は(父=マーク・ウォルバーグ、母=レイチェル・ワイズ、祖母=スーザン・サランドン、妹=ローズ・マクアイヴァー、弟=クリスチャン・トーマス・アシュデイル)は突然姿を消したスージーに嘆き、家庭は崩壊の一途を辿ろうとしていた。その頃、スージーはこの世と天国の狭間に自分自身を見出す。そして、彼女は悲しみに暮れる家族と、初恋の相手、そして彼女を無惨にも殺し、犯罪の証拠隠滅に成功した犯人の行く末を見守り始める…。

 死んだ、という事は息絶えた本人にはどの時点で分かるのだろうか。スージーは彼女の魂が肉体と繋がりを持たなくなった瞬間、殺人犯から逃げ出す。走って、走って、家を目指す。彼女の魂は混乱しているのだ。その時の彼女はまだ彼女自身が死んでしまった事を知らない。本作はスージーが自分の死を自覚するまでの段階をミステリー調に描いており、彼女自身でその謎を解いて行く展開が非常に面白い。また、その亡くなった少女を演じるシアーシャ・ローナンが、等身大の瑞々しくも芯のある演技を披露しており、『つぐない』でアカデミー助演女優賞にノミネートされた経験も納得の凄い女優である事が知らしめる。

 夢は記憶の整理と言う様に、夢には現実世界の出来事が違う形で現れる事が多々ある。スージーのいるこの世と天国の狭間はまるで夢の中。そこには彼女が体験した事や、彼女が天国への通過点から見ているこの世の出来事が、象徴的に現れる。ピーター・ジャクソンはそれらをサイケデリックな映像で見せ、70年代から活躍するミュージシャンのブライアン・イーノのパワフルな音楽がその世界を彩り、1973年に14歳だった少女の死の経験どんなものであるかを、わたしたちにも体験させようとする。

 スージーの父ジャックは、警察が全く役に立たない中、たった1人で殺人犯探しを試みる。パズルを組み合わせる様に、起こった事態を1つ1つ受け止め繋ぎ合わせていく彼は、スージーが知らない人には絶対に付いて行かない少女であったという事実が引っかかる。そこで彼は隣人であるハーヴィに疑いを抱き始める。緑色の家に住む1人身のその中年男の娘を見る目が気になっていたのだ(胡散臭いトゥッチ氏が素晴らしい)。ある日、ジャックがハーヴィ宅を訪れた際、彼はスージーが生きていた時は赤く美しく咲いていた、枯れたバラに奇妙さを感じる。そして枯れた花を手に取る彼はスージーを手の中で感じ、ほぼハーヴィが犯人である事を確信する。純粋で可憐なスージーの生命力の象徴は花とし、その花を通して父と娘の意識が繋がる一連のシーンが非常に興味深い。

 ジャックは娘の殺人犯探しに執着し、そんな夫に我慢が出来ず妻のアビゲイルは家を飛び出す。そんな壊れかけた家を救いにやって来るのがスージーの祖母のリン。彼女はファンキーな婆さんで、コミカルさを演出し、物語にメリハリを付けようとしているが、彼女がただの道化師の様にしか見えないのが残念。それを始めとし、才能ある役者たちの演技がうまく同調しない事と、脚本上でスージーの家族の描き方が非常に疎かなのが、この作品の薄っぺらな原因。本作は「殺人」を描く物語ではなく、思春期にあった亡くなった少女が、この世に残した未練を観察する事が、本作が特別である点。それゆえ、彼女の未練の大きな部分を占める家族のドラマがひ弱では、物語に共感を覚える事が難しく、感動も不発に終わるのだ。

岡本太陽

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