ヨコヅナマドンナ - 福本次郎

かなわぬ恋に胸を痛める切なさ、シルムという格闘技にエネルギーをぶつける激しさ。このふたつの感情を強調することで、いくらでも面白い青春ドラマにすることができたはずなのに、確信犯的に見るものの期待をはぐらかす。(40点)

 かなわぬ恋に胸を痛める切なさ、シルムという格闘技にエネルギーをぶつける激しさ。このふたつの感情を強調することで、いくらでも面白い青春ドラマにすることができたのに、確信犯的に見るものの期待をはぐらかす。主人公の少年の繊細な心理をリアルに描くかと思えば、誇張した表現で笑いを誘うという映画の方向性は予想がつかず、かといって突き抜けた驚きもない。結果として独特の世界観を構築することには成功しているが、共感できる要素は少なく、最後まで物語になじめなかった。

 性同一性障害の男子高校生のドングは、性転換手術の費用を稼ぐためにバイトの日々。ある日、シルムで優勝すれば奨学金が出ると聞き、シルム部の門を叩く。そこはキャプテン以外はやる気のない部員ばかりだった。

 女の子になりたいと願うあまり隠れて化粧や女装しているのに、生理が始まった夢を見て夢精するという皮肉。しかし、乙女心を持った少年の精神面での葛藤と、家族や社会の中途半端な理解と確固たる偏見という現実との戦いは最小限に抑えている。さらにシルムで勝つための練習に厳しさもない。マドンナのようなカッコイイ女性に憧れるドングの意思の強さが作品の根底に流れていることは明快なのだが、それを実現させるための方法論になぜこれほどまでに何重にもオブラートに包んだようなもってまわった語り口にするのだろうか。

 結局、市主催のシルム大会に出場し勝ち進んだドングは、決勝戦でキャプテンと対戦する。本来ならばドングの運命がかかったクライマックスであるはずなのに、試合はドングの鼻の下のホクロに生えた毛を見たキャプテンが笑い出して自滅するという、恐ろしくナンセンスな決まり手でドングが勝つ。なにも感動的な演出で盛り上げる必要はないのだが、ここまでハズされると、この映画の監督に馬鹿にされているとしか思えない。まあ、たかが人生、そんなに熱くなって、自分を憎んでいるドングの父親のようにはなるなというメッセージなのかもしれないが。。。

福本次郎

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