ミーシャ/ホロコーストと白い狼 - 福本次郎

ミミズをほおばり、ウサギの死体に歯を立て、イノシシの生肉を口にする。たった1人両親が連れ去られた方角に向かって歩き続ける8歳の少女の、食糧をナマのまま咀嚼するという生きることへの執着が映画に説得力を持たせている。(60点)

 土中のミミズをほおばり、ウサギの死体に歯を立て、イノシシやヒツジの生肉を口にする。たった1人、頼るべき大人もカネもなく、ただ両親が連れ去られた方角に向かって歩き続ける8歳の少女。人目を避け、道のない森を抜ける過程でいつしか彼女はたくましく生き抜く術を身につけていく。しかもその移動は、ベルギーからウクライナまで欧州をほぼ横断するという途方もない距離。交通手段を使わずに踏破したとはにわかに信じがたいが、彼女の食糧を調理せずナマのまま咀嚼するという生きることへの執着が説得力を持たせている。

 ナチスによるユダヤ人狩りで両親を連行されたミーシャは、旅の準備もしないままコンパスだけを頼りに2人がいると聞かされた「東」に向かって逃げる。冬になりドイツの森で疲れ果てていたミーシャは白い狼と出会う。

 ブリュッセルでのミーシャは意志が強いけれど甘えん坊で、都会育ちの身にはとてもサバイバル能力が備わっているとは思えない。しかし、農村に避難して禁忌であるブタ肉を振舞われたあたりから、命を維持するには食べるほかないと悟ったのだろう。もちろん民家からも盗むが大半は人里はなれた森の中だ。そこで自ら飼いならした狼と共同で狩をして獲物の肉を食らうという、凄絶な食欲の爆発。垢にまみれ血に汚れながらも決してあきらめず両親の元を目指す姿は鬼気迫るものがある。また、ポーランドではドイツ軍の罠を見抜くなどの知恵を示し、もはや大人のような用心深さまで身にまとうのだ。

 やがてウクライナで赤軍兵士に保護されるが、ブリュッセルが解放されたというニュースを見て、帰る決意をする。今度はナチスの追撃もないのだが、それでも無一文で今度は西に転じる。隠れ家にたどり着いたときには幽鬼のようになり、ほとんど感情も失い、残っているのは両親への思いのみ。ある意味、戦場よりも過酷な環境を生き伸びたミーシャにとって余りにも悲しい結末が待っている。家族を引き裂かれ、消息すら知ることができない、そんな戦争の現実の一面を改めて認識させられた。

福本次郎

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