マンマ・ミーア! - 岡本太陽

◆ABBAの曲で大人気ブロードウェイミュージカルをメリル・ストリープ主演映画化(40点)

 現在もブロードウェイ・ミュージカル等で大人気の『マンマ・ミーア!』は、世界各国で既に3千万人以上の客を獲得している。このミュージカルのスタイルはミュージカル用に曲を書き下ろしたのではなく、既存の曲を並べ全編構成されているので、ジュークボックス・ミュージカルと呼ばれている。スウェーデンのポップグループABBAのヒット曲をメルビン・フランク監督、ジーナ・ロロブリジーダ主演の1968年の映画『想い出よ、今晩は!』のストーリーにのせている。

 その大人気ミュージカルがミュージカル映画『マンマ・ミーア!(原題:MAMMA MIA!)』として今夏公開に至る。監督はミュージカルと同じくフィリダ・ロイド。この映画には主演にメリル・ストリープを迎えており、昨年夏のヒットミュージカル映画『ヘアスプレー』を上回る人気が期待されている。

 とあるギリシャの小さな島に20歳のソフィー・シェリダンは母親ドナと一緒に暮らしている。ドナはその島に小さなホテル「ヴィラ・ドナ」を経営しており、ソフィーはたった1人の家族として母親を手伝っている。ソフィーは恋人のスカイと結婚する予定で、未だ知らない父親にも彼女の結婚を祝福して欲しいと願ってやまない。そんな時に、彼女は20年前の母親の日記を見つけ、そこに書かれている父親の可能性のある3人の男性サム、ハリー、ビルに招待状を送る。ソフィーはその3人の中から父親を探し出せる事を願うが…。

 ABBA のヒットソング20曲で彩られたミュージカルは108分間とにかく始めから最後までテンションが高い。ABBAの曲でキャストが歌って踊るのを観るのは妙な気分になるもので、これを一体どうやって楽しめばいいのか?母子家庭の映画で、映画の中にははしゃぐ女性がわんさか。特に男性は映画の上映中に行き場の無さを味わわされてしまうかもしれない。それでもやはりメリル・ストリープが出ているということで、彼女の演技には注目してしまう。彼女はソフィーの母親ドナを演じているが、歌って踊って演技してと改めて彼女には出来ない役はないのではないかと感じさせられる。ただこの役は彼女のキャリアには必要が無かった事と、彼女自身がドナの設定よりは年齢がだいぶ上に見えるのが気になる。

 主人公ソフィーを演じるのはアマンダ・セイフリード。『ミーン・ガールズ』等で知られる女優で、今回の『マンマ・ミーア!』が彼女にとっては一番の大役。映画の中では透き通った歌声とキラキラした演技を披露している。また、彼女の大きな青い目がとても印象的だ。ソフィーの母親ドナの若き日の親友達もソフィーの結婚式のために彼女達が住む島に訪れるのだが、その2人ターニャを『シカゴ』等のクリスティーン・バランスキー、ロージーを『ハリー・ポッター』シリーズでお馴染みのジュリー・ウォルターズが演じている。彼女達2人はこの作品の中ではキャピキャピし過ぎており、見苦しくすらあるが、バランスキーとウォルターズの出演シーンは映画の中で一番安心して観る事が出来る。アマンダ・セイフリードが若くて確実にABBA世代ではなく、彼女がうまくその時代の曲に乗れない分、熟年の2人の女優達がカバーしているかたちだ。

 それから、ソフィーが母親の日記を読み、手紙を送った3人の男性サム・カーマイケルを『007』5代目ジェームズ・ボンドのピアース・ブロスナン、ハリー・ブライトを『ブリジット・ジョーンズの日記』のコリン・ファース、ビル・オースティンを『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズのステラン・スカルスガルドが演じている。ピアース・ブロスナンは『007』シリーズの人気を復活させ、新作『ああ、結婚生活』でも彼の持ち味を生かした演技を披露している良い役者なのだが、彼のこのミュージカル映画での致命的な欠点は歌声が酷いということだ。あれはギャグなのだろうか!?特にメリル・ストリープと歌う「S.O.S」はあまりにも酷いので笑ってしまう。

 そしてソフィーの婚約者スカイを演じるのは、『マンマ・ミーア!』で一躍注目を浴びるドミニク・クーパー。彼は『ナルニア国物語第2章:カスピアン王子の角笛』のベン・バーンズも出演していた『ザ・ヒストリー・ボーイズ』やジェームズ・マカヴォイ主演の『STARTER FOR 10』に出演している。『マンマ・ミーア!』では主要キャストの1人だが、個性の強い年上の俳優陣に押されあまり強い印象は残さないのが残念だ。

 ABBA のメンバー、ビョルン・ウルヴァースとベニー・アンダーソンの作ったヒットソングをストーリーに乗せて、それを繋ぎ合わせて物語が作られており、この映画が中身の薄いただのエンタテイメントになってしまったのは、それはミュージカルと同様で、やはり物語と曲が完璧に合っていないからだろう。やはり既存の曲だけで物語を構成するのは非常に難しい。また映画の中の照明の具合が安っぽく、それがビジュアル的な質を落としている。しかしながら、その問題点はギリシャの小さな島と輝く海がカバーしてくれている。アメリカでは女性向きの映画の事をチック・ムービーというのだが、『マンマ・ミーア!』はまさにそれ。恋人同士でこの作品を観に行く場合は彼女は喜ぶだろう、またABBA世代の人達も音楽に乗って楽しめるかもしれない。

岡本太陽

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