ボビーZ - 前田有一

犯罪者が犯罪者になりすます?!(55点)

 ドン・ウィンズロウの原作をポール・ウォーカー主演で映画化。そんな触れ込みもタイトルの吸引力も、日本ではまずヒットに結びつくことはないであろうと最初からわかりきっているあたりが気の毒だ。

 もちろんミステリファンにとってドン・ウィンズロウは、『ストリート・キッズ』シリーズでニール・ケアリーというキャラクターを生み出した名作家であり、映画ファンにとってポール・ウォーカーは『ワイルド・スピード』の顔、そこそこの人気スターだ。よって、日本国内での知名度はイマイチでも質的には期待できるはずなのだが、それにしてもこの押し出しの弱さはいかがなものか。

 元海兵隊員の主人公ティム(ポール・ウォーカー)は、服役中に別の囚人とトラブルを起こし、いまや塀の中でも命を狙われていた。そんなある日、DEA(麻薬取締局)がたずねて来て、刑の免除と引き換えに麻薬王のボビー・Zになりすまし、捜査協力せよとの取引を持ちかけてきた。

 カリフォルニアのワルの間で伝説となっている、謎の男ボビーZ。その正体を知るものは少ないが、数少ない資料によるとティムと顔つきがそっくりだという。選択の余地なく引き受けたものの、それは想像以上に危険な仕事だった。

 ティムはやがて、ボビーの恋人(オリヴィア・ワイルド)や彼女が世話する少年と知り合い、裏社会で危険な綱渡りを始める。金にも女にも困らぬ暮らしは一見いいが、いつ正体がバレてしまうのか。そんなスリルを味わえる。刑事がおとり捜査をする話は数あれど、犯罪者が大犯罪者に成りすます中で、まともになっていく構図は珍しい。毒を抜くには別の毒で、てな具合だが、そんな設定の妙を生かしきれていないのは残念。

 メキシコ風味のゆるいムードの犯罪ムービーで、途中のアクションはしっかり撮られているものの、どこかB級感が漂う微妙な空気。少年との心のふれあいや美女とのロマンスも悪くはないが、それが見所になるほどかといえばそうでもない。把握しにくい筋書きもあって、つまらなくはないがスッキリしない印象だ。あれま、これでは冒頭に書いたタイトルと触れ込み初見時の感想そのものではないか。

 せめて各キャラクターの描写が慎重になされていればと思うが、その辺も荒っぽい。アクションシーンで楽しませてくれるのはいいが、あんなかわいい子供を連れながら、敵とはいえ血の通ったにんげんをブチ殺しまくる展開はどうなのか。これでは重症のPTSD決定である。

 ほとんど一本道のストーリーは、なんやかやで退屈はしないものの、どうも後で思い出せるような長所がない(短所も少ないが)。ヒマつぶしにはいいが、どうやらそれ以上にはなりそうもない。

前田有一

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