人ごとではないサバイバル・スリラーに心が凍る?(点数 90点)
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政治的思想も戦う意義も持たない、若き英国軍兵士。
そんな彼が、敵地にひとり取り残されてしまったら?
「血の日曜日事件」(1972年1月30日)発生前夜の1971年。
英国軍の新兵・ゲイリー(ジャック・オコンネル)は、紛争が激化している北アイルランドのベルファストに、赴任します。
北アイルランド成立以来、半世紀に及ぶプロテスタント系住民とカトリック系住民との衝突はいよいよ激しさを増し、町は、複雑に絡み合う活動家たちの思惑が交差していました。
ゲイリーは、パトロールの最中に争いに巻き込まれ、敵対派の少年に銃を盗まれます。
群集の中に逃げ込んだ少年を追いますが、自分が敵のテリトリーにたったひとりで入り込んでしまっていることに気づいて……。
こわい。こわすぎます。
敵の中で孤立無援ですよ。味方はとっとと逃げてしまっているし、仲間は撃ち殺されているし。
生き残るためにはどうしたらいいのか?
恐怖の一夜が、何も知らないゲイリーの視点で、進んでいきます。
誰が敵で誰が味方だか、まったく見当がつきません。
見ているだけで、ひしひしと恐怖が伝わってきます。
息をすることを忘れてしまいそうな緊迫感。
淡々と進んでいるサバイバル・スリラーに緊張しっぱなしです。
時代を超えた普遍的な人間の感情が美化されることなく剥き出しにされ、目を覆う場面も多いです。
あまりのリアルさで、ドキュメンタリーと見まごうほどです。
衝撃のラストに声を失ってしまうハズ。
これは過去の物語ですが、対岸の火事ではありません。
今我々が考えなくてはいけないことが、はっきりと提示されています。
暑い夏に心が冷えてしまうかも。
でも向き合わなくてはいけない作品です。
(小泉 浩子)