ベクシル ?2077日本鎖国? - 前田有一

こういう意欲作がどんどん増えたらいい(65点)

 かつて『Returner リターナー』(02年、山崎貴監督)と『ピンポン』(02年、曽利文彦監督)をみたとき私は、明らかに世界レベルのエンターテイメントを志向するこの二人の監督が、やがて邦画界を変えてくれるかもしれないと大いに期待した。

 作品はまだ荒削りではあったが、ともにCGなどVFXの専門畑から監督業に進出してきた彼らからは、従来の映画監督にはない発想と、それを形にするだけの実力が感じられたものだ。なにより既存の枠組みから脱することをいとわぬ怖いもの知らずな勇気、面白いものを見せてやろうというサービス精神が作品からにじみ出ていた。

 その後、山崎貴監督のほうは『ALWAYS 三丁目の夕日』で、見事その年の日本の映画賞を総なめにした。そして曽利文彦監督の、『ピンポン』以来5年ぶりとなる最新作がこの『ベクシル 2077 日本鎖国』である。

 2067年、バイオテクノロジーとロボット産業の分野で世界市場を席巻する日本に、国連は規制という名の圧力をかけ始めた。これに対し日本は、情報、物理両面を完全にシャットアウトするハイテク鎖国を敢行する。やがて時は過ぎ、女性兵士ベクシル(声:黒木メイサ)ら米国の特殊部隊が10年ぶりに日本列島に潜入すると、そこには想像を絶する光景が広がっていた。

 人気漫画の原作があるわけでもなく、高視聴率ドラマの映画化でもない。そんなリスキーな企画を、しかも3Dライブアニメという、まだ一般に評価が定まっていない新しい手法で映画化しようと考えたスタッフの心意気をまずは評価したい。

 しかも上記あらすじを見る限り、すこぶる魅力的な設定ではないか。世界最高のハイテクを駆使した、情報衛星からも偵察機からもまったく見えない"完全なる鎖国"。そんな状態が10年も続いたら、国家と国民はどうなってしまうのか。この仕事をやっているとよくわかるが、アイデアだけで興味をひきつけられる映画はそう多くない。とくに邦画には少ない。

 曽利監督がプロデュースした『APPLESEED アップルシード』(04年)以来となる、本格的な3D-ライブアニメの長編作品というのも興味深い。これだけスケールの大きな話は、実写はもとより通常のアニメより低コストで作れるといわれるこの手法にぴったりだ。

 人間の役者の動きをキャプチャーして3D-CGにし、セル風に着色するこのアイデアは、『アップルシード』に比べ技術面で大きな進化を遂げたとされる。

 ただ、実際にみてみると『アップルシード』にくらべ、キャラクターは硬質なルックスとなり、表情も硬い。メカの動き(荒野を猛スピードで駆け抜けるバギーの迫力は物凄いものがある)などがもはや実写同様のクォリティである分、人物の顔(具体的には声優の演技とCGキャラの表情とのギャップ)の違和感が目立つ格好だ。

 当初私は、これは技術がまだ追い付いていないためかと思っていたが、曽利監督に聞いてみたところ、どうやらそうではないらしい。監督によればライブアニメにおける"表情"は、それこそ何でも表現できるほど完成されているが、あまりに実写よりにするとかえって変なので、いろいろ試してこのあたりに落ち着けたということだ。

 フル3Dライブアニメの劇場用長編の歴史は浅く、何でもできるとなると逆にどこに落としどころを持ってくるか悩ましいところだろう。私としては、人物の塗りはもっと思い切ってセルアニメ寄りのテクスチャーにして、体の動き自体は現状で、という形にしたらなお良かろうと思う。

 ただ、さすがにメカを交えたアクションシーンの迫力はすごい。前述のバギーの場面はもちろんだが、それ以外にも見せ場は多数用意される。そして、この監督が大したものだなあと思うのは、それらをあえて、実写として作れる範囲のカメラワーク、構図でデザインしているところだ。『ベクシル』のアクションシークエンスには、荒唐無稽な画面の動きがない。つまり、製作費さえ彼に与えれば、実写で同じものを作ることもできるであろうということだ。

 これは、ハリウッドに対する曽利監督からの挑戦状にほかならない。見ればわかるがこの映画のスペクタクルシーンは、まさにアメリカ映画の大作を彷彿とさせる絵作りだ。決してCG技術じたいの最高スペックを見せるのではなく、予算などによる作り手の制限を打ち破るための手段、すなわち表現のための道具として"利用"している。それは、じつにまっとうな考え方だ。

 物語のほうは、当初予想していたポリティカルサスペンスとは違って、意外なほど政治・思想色が薄いものだった。日本の場合は現在、隣にじっさい鎖国しているような変な国があるので、いくらでも政治的な比喩を含めることはできたと思うが、あえてそうはしなかったようだ。個人的には、もっと濃い味付けにしてほしかったが、これは好みの問題だろう。

 『ベクシル 2077 日本鎖国』は相当な意欲作で、様々なチャレンジが作品にこめられているのがよくわかる。それに対しては応援したい気持ちでいっぱいだが、しかし3Dライブアニメの可能性はさらに広げられるはずだということも、これを見ると同時にわかる。技術はようやく完成に近づいたが、その運用はまだまだ工夫の余地があろう。

 曽利監督は実写映画と合わせ、こちらの方も引き続きがんばっていくということだ。次回も日本映画どころか、ハリウッドの想像力さえ追い越していくような、スケールの大きな作品を期待したい。

前田有一

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