ノウイング - 山口拓朗

◆"孤独の影"がすっかりワンパターン化したニコラス・ケイジ(60点)

 大学教授で宇宙物理学者のジョン(ニコラス・ケイジ)は、ある日、息子ケイレブ(チャンドラー・カンタベリー)が学校から持ち帰った、ギッシリと数字が羅列された不可解な手紙を目にする。それは、息子が通う小学校で掘り起こされた50年前のタイムカプセルに入っていたものだという。ジョンが手紙に書かれた数字の意味を調べると、その数字が未来に起こるさまざまな大惨事を予言したものであることが分かった……。

 暗号にまつわるミステリーをドラマの背骨にした、パニックあり、ファンタジーあり、ホラーあり、スペクタクルあり、サスペンスあり、アクションありのごった煮エンターテインメントだ。スリルとスピード感を兼ね備えた大作にもかかわらず、どことなくB級ムードなのは、途中から忍び寄る「あれ」のせいや、そんな「あれ」が用意する巨大な「あれ」のせいだろうか。

 ドラマの中核をなすミステリーからして、穴ぼこだらけという印象だ。タイムカプセルや意味シンな暗号には興味を引かれるが、なにゆえ、手紙のありかが古いチェストや物置きでなく、タイムカプセルでなければならなかったのか? いや、そもそもその暗号がなぜ50年間も伏せられなければならなかったのか? そのあたりの肉付けがなされていないため、その後の展開に奥行きや説得力が生まれない。映画として好素材のタイムカプセルを、映画をリードする「装置」ではなく、単なる「道具」として使い捨ててしまったことは、この映画の大きな失策だろう。

 さて、人類にとって不吉な未来が予見される場合、なんとかして人類を救おうとするのが、有史(映画史?)以来の人間(主人公?)のあり方。動物の「自己防衛」という本能に照らし合わせても、子を持つ親の心理としても、謎を解明しようとする主人公ジョンの行動に不自然さは感じられない。ただし、この映画を「人類救済」という手垢のついたヒーロー映画の枠に押し込もうとするのは大間違い。なぜなら、そうした手垢がかすむほど、オドロキのラストが待ち受けているからだ。

 キリスト教が根付くアメリカらしい宗教的かつ哲学的な示唆を感じ取って、神と人間が交わす契約の深淵に浸るのもよし、オドロキついでに突っ込みどころを指折り数えるのもよし。この映画のラストの受け止め方は、見る人の宗教観と、SFスペクタルに対する寛容度次第で異なるだろう。人類への警告の物語。親子愛の物語。種の保存の物語。神話の焼き直し。単なる思わせぶりなおとぎ話……。見方はいろいろできるが、私個人は、この物語が伝えようとするメッセージに咀嚼しがたいえぐ味を感じた。それは、この50年間に起きた大惨事のなかに、「9.11」という決して遠くない過去のリアルな事件を含んでいる点に、この映画の過剰な自意識と無神経さを感じるからかもしれない。

 一方で、映像的に見逃せない迫力満点のシーンがいくつかある。なかでも、飛行機と地下鉄が登場するシーンは一見の価値アリ。このふたつのシーンで描かれるVFX技術全開の地獄絵図、このリアルな光景を平常時脈拍のまま見られる人はまずいないだろう。とくに地下鉄のシーンの臨場感は圧巻中の圧巻。思わず私も、背筋をこわばらせて、両足を踏ん張ってしまった。頭上に「やめてくれ!」の吹き出しを出しながら。これらVFXを担当したのは、「ハリー・ポッター」や「300」等で評価を受けるスタジオ「アニマル・ロジック」。突っ込みどころの多いドラマとは一転、キラ星のように輝く仕事ぶりといえよう。

 "孤独の影"がすっかりワンパターン化したニコラス・ケイジの演技はさておき、このたび特別賞を贈りたいのは、ふたりの子役だ(男の子のチャンドラー・カンタベリーと、女の子のララ・ロビンソン)。セリフ以上に表情での演技が重要視される難しい役どころを立派に演じている。つくづく、彼らの才能を発揮させるに十分な物語が用意されていれば……と惜しまれてならない。

山口拓朗

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