ナルコ - 福本次郎

◆現実を認識するのが脳ならば、夢を見るのもやはり脳。突然その境界線が崩れ、意思に関係なく眠ってしまう病気を持つものならば、もはや夢と現実の区別に意味はない。むしろ主人公にとって夢の中での体験こそが真実なのだ。(50点)

ネタバレ注意! この批評は結末に触れています。

 現実を認識するのが脳ならば、夢を見るのも脳。突然その境界線が崩れ、意思に関係なく眠ってしまう病気を持つものならば、もはや夢と現実の区別に意味はない。病気のせいで社会に対応できない代わりに夢の中ではスーパーヒーロー。ならば主人公が生きている実感を得るのは夢の中だけ。それでも現実世界で生きている以上、カネを稼ぎ食べなければいけない。映画は睡眠発作障害を持つ主人公を通して、夢を追うことと、その限界を問う。

 突発的な睡眠に襲われるナルコプレシーの持病を持つギュスは、そのせいで定職にも就けず妻・パムにも愛想をつかされている。ある日、睡眠中見た夢をコミックに描くことで美術的な才能を開花させていくが、交通事故にあって意識不明になる。

 戦場での活躍、スパイアクション、そしてスターウォーズ。ギュスの夢は昔見たハリウッド映画のリアルな焼き直し。さらにそれをコミックにするという、夢と現実の往復。そのせいか、覚醒しているときのギュスがみる風景はどこか作り物めいている。ギュスにとって夢の中での体験こそが真実で、それをコミックにすることはずっと夢の中にとどまっていたいという現実逃避だ。だからこそ彼の作品は現実に倦み夢に飢えている読者の心をつかみヒットする。

 親友のレニーは空手家として映画スターに、妻のパムはネイルアーティストとしての成功と、ギュスの近しい人たちもまた夢を持っている。しかしそれは叶う可能性の小さな夢。かなわないと分かっているからこそ見続けられる夢なのだ。結局、こん睡状態から戻ったギュスはナルコプレシーを克服するが、コミックを描くこともやめてしまい普通の勤め人としての生活を手に入れる。しかし、その表情にはナルコのときのほうが幸せだったというほんの少しの後悔がにじみ出ている。夢を見る能力を失った人生は、ギュスにとって平穏だが不幸な人生に違いない。

福本次郎

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