チェンジリング - 山口拓朗

◆アンジェリーナ・ジョリーの熱演が光る(80点)

 ある日、シングルマザーであるクリスティンの息子ウォルターが突然姿を消した。5カ月後、警察からウォルターを発見したとの一報を受けたクリスティンは、すぐにウォルターを引き取りに行く。ところが、少年はまったくの別人だった。クリスティンは人違いだと訴えるが……。

 主人公のクリスティンを演じたアンジェリーナ・ジョリーの熱演が光る。息子を失ったショックと悲しみ、そして、息子の無事をひたすら信じる姿に、親という生き物の本質を見て取ることができる。

 物語は、息子に対する母親の強い愛情を描く一方で、史上まれに見るミスを犯し、その隠ぺい工作を行った警察の欺瞞に非難の目を向ける。担当刑事の悪意に満ちた言動は、観客の気持ちを大いに逆なでするが、その醜い姿を通じて、"権力による暴力"を浮き彫りにする。

 中盤以降は、あたかも別の映画に迷い込んだかのように物語を大きく展開させて、ウォルターの失踪にまつわる真相に切り込む。しかも、単なる謎解きではなく、ある犯罪者の人間性とその悲劇的な末路を徹底的に描く。観客を安心させようという殊勝な心がけなど微塵も見あたらないこのあたりの描写は、さすがはイーストウッド監督、容赦がない。

 深い洞察と演出を武器とするイーストウッド監督の仕事ぶりは健在だ。ふとしたボタンのかけ違いから生じる恐るべき誤解や、猟奇めいた犯罪が見透かすこの世の不条理、あるいは死に対する人間の根源的な恐怖心など、随所に光らせた示唆と教訓にじつに重みがある。

 唯一受け入れがたかったのは、ウォルターではない子供をクリスティンがみすみす引き取った点だ。もちろん、警察の強引さやクリスティンの動揺を勘定に入れるべきなのだろうが(史実でもあるし)、だとするなら、自分の子供を探しているにもかかわらずヨソの子を引き取るという「極めて不自然なケース」を納得させるための伏線張りには、もう少し丁寧さがあってもよかったかもしれない。

 イーストウッド監督の老巧な手腕が冴える本作「チェンジリング」は、かつて実際に起きた史実をモチーフに、この世のウソやまやかしをあぶり出した気鋭の1本だ。「揺れ動く母の気持ち」「権力の欺瞞と腐敗」「とある猟奇事件の真相」という3つの柱を交錯させた物語は、ひとつの事実を多角的に浮かび上がらせて、この世に一元的な真相など存在しえないことを物語っているようでもある。

 劇中にちりばめられた無数の痛みと、最後に見えた――それを「希望」と呼ぶにはあまりにせつなすぎるが――ひとすじの光。そのギャップに目まいを覚えそうになった。

山口拓朗

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